その11
「スヴィアの撤退が事実だとしたら、この長い戦いは漸く終わりですかね……」
ラーケイは、溜息交じりにそう言った。
「うーん……」
エルドラン侯は、ラーケイの意見に賛同したい様子だった。
が、何とも言えない表情をしていた。
「閣下、シーサクの方は撤退しないと?」
ラーケイは、歯切れの悪い司令官に驚いていた。
エルドラン侯は、そんなに悩むタイプではないからだ。
あっ、まあ、ディスっている訳ではない……。
「この状況、貴官は予想出来たか?」
エルドラン侯は、質問に質問で返してきた。
「いえ」
ラーケイは、それでもそう即答した。
「そうだろうな、予想外すぎる。
まずは、スヴィアの撤退が擬態でない事を確認する必要がある。
全ての話はそこからだ」
エルドラン侯は、そう説明を付け加えた。
現状を難しく考えすぎている自覚はあった。
だが、相手はスヴィア王国とシーサク王国である。
この国は、シーサクは軍事国家であり、スヴィアは戦上手である。
同数では、バルディオン王国に不利だという認識がエルドラン侯にはあった。
前回の戦いでは、兵站の不備を突いて何とか勝利していた。
だが、今回は、兵站をきちんと守っており、それ故に長期戦となっていた。
バルディオン側も粘り強く戦ってはいたが、攻勢に出る糸口を掴みかねていた。
なので、慎重になるのは当然であった。
「確かにその通りですな。
では、擬態の場合、シーサクも動くのでは?」
ラーケイは、参謀長らしい理論展開を見せた。
「うん、それも考えられるな!」
エルドラン侯は、ラーケイの意見を受け入れる事にした。
そこで、腕組みをして一旦考えた。
それを見て、ラーケイは命令を待っていた。
「遊撃に出ているグルフを呼び戻せ。
ラロスゼンロの守りを固める」
エルドラン侯は、守りを固める事を選択した。
スヴィアの撤退が擬態とすれば、奇襲がある筈である。
そして、その場所は、ラロスゼンロと決まっている。
ならば、それに予め備えるべきだと判断したのだった。
奇襲の場合、敵が動いてからだと間に合わない恐れがあるからだ。
意外と手堅い策を講じてくる。
「了解しました。
バメグラッド伯爵閣下を呼び戻す事にします」
とラーケイも同意し、
「伝令係!」
と部下を1人呼んだ。
副官はこの時、スヴィアの斥候の手筈を整えに出てしまっていた。
なので、別の者に、その任を託した。
因みに、バメグラッド伯爵グルフは、エルドラン侯の嫡子である。
エルドラン侯は、ラーケイが伝令係に指図しているのを見ながら他に手抜かりがないか考えていたのだった。




