その10
エルドラン侯は、ラロスゼンロ防衛の指揮を執っていた。
スヴィアの拠点への攻撃は既に始まっていた。
そして、ほぼ同時に、シーサクがこちらを攻撃してきたのだった。
エルドラン侯は、各城壁を回りながら戦況を確認していた。
性格に難があるとは言え、こうやって戦線に立つことによって、味方を鼓舞しているのだった。
そう言う所は、立派である。
エルドラン侯は、西の城壁に来ていた。
6月なので、日が長く、漸く夕方に差し掛かっていた。
日が長いとは言え、夕方である。
普通ならば戦闘は終了という時間である。
エルドラン侯は、夕日に照らされている敵軍を観察していた。
特におかしな動きは見られない。
この時間だけあって、一旦撤退する動きを見せていた。
(今日のところは、敵もこれで終わりというらしいな……)
エルドラン侯は、そう思いながら安心した。
口には出さなかったのは、敵に隙を見せない為だった。
「閣下、急報です」
いつの間にかに、そばを離れていた副官フルイが、エルドラン侯の元に飛び込んできた。
どうやら、急報を受け取っていたようだ。
「何か?」
エルドラン侯は、焦っているフルイとは対照的に冷静だった。
司令官は常に威厳を持っていないといけないというポリシーからそうさせていた。
うん、やっぱ、見習って貰いたい所ばかりですね、この戦いでは。
「東方戦線に動きあり」
フルイは、間の悪い事にそこで、つっかえてしまった。
エルドラン侯は、当然、悪い報せだと悟らざるを得なかった。
そして、直ぐに、東側を固めるべく、思案を巡らせていた。
フルイの方は、一旦呼吸を整えていた。
「スヴィア軍、全面撤退の模様とのことです」
フルイは、溜めた分を一気に吐き出すように言った。
「……」
エルドラン侯は、思わぬ報せに驚いていた。
戦いが再開した初日である。
激戦になる可能性があるものの、大きな動きが出にくいのが、初日といものである。
なのに、これはどういう事か?
「その情報に間違いが無いのだな?」
黙ってしまった司令官に代わり、第2軍の参謀長であるラーケイが聞いた。
「遊撃軍総司令官のサリドラン侯爵閣下、自らの書簡です。
間違いは無いと思われます。
ただし、その後の詳細は、状況の変化毎にお知らせするとの事です」
フルイは、追伸部分を付け足した。
「閣下、大戦果ですな!」
ラーケイは、確認後、喜んでいた。
「……」
エルドラン侯は、肩透かしを食らったせいか、釈然としなかった。
と言うより、明らかに擬態を疑っていた。
「閣下、何かご懸念でも?」
ラーケイは、今度はエルドラン侯に尋ねた。
「擬態ではないのか?」
エルドラン侯は、慎重になっていた。
これまでの長い戦いを考えると、仕方がない事だろう。
「報告によれば、その事については、何とも言えません。
サリドラン侯も、現在、注視している所だと思われます」
フルイは、書簡の行間を読むようにそう答えた。
「そうだな……」
エルドラン侯は、フルイの答えに同調する他なかった。
情報が、それ以上伝わってこないのだから仕方がなかった。
「閣下、何か、対応なさいますか?」
ラーケイは、司令官に確認を入れた。
「そうだな、こちらも待っているばかりではダメだな。
こちらからも、斥候を出そう」
エルドラン侯は、そう決断した。
「了解しました」
フルイは敬礼すると、その手筈を整える為に、走り出した。




