その8
当然、サラサから疑いの目を向けられた。
それに耐えられなかったバンデリックは、我が子を抱き直した。
「出征に伴い、この子の乳母は、決めちゃっていいかな?」
バンデリックは、痛すぎる腹を探られる前に、話題を掛けた。
探られるときっと致命傷になったからだろう。
「ああ、マリザの推薦してきた子ね……」
サラサは、あまり乗り気ではない様子だった。
我が子を見ながら、他人に預けるのを良しとはしていないようだった。
うん、母親らしい。
「ああ、フィアナには預けられないよ。
結婚したとは言え、まだ子供を産んではいないからね」
バンデリックは、先手を打つかのようにそう言った。
副官フィアナ、いや、前副官フィアナは、サラサの産婆を任務満了していた。
そして、その後、サラサ艦隊の旗艦の艦長と結婚していた。
フィアナは、サラサを度々諫めた事で、艦隊内での求婚者が殺到した。
そんな中、独身主義を貫いていた艦長が、壮絶な争奪戦に勝利したのだった。
ま、その話はいいか……。
「それは分かっているわよ」
サラサはそう言うと、不機嫌になりながら腕組みをして考え込んだ。
(他人に預けて、大丈夫かしらねぇ……。
私が……)
サラサは、変な所を心配しているようだった。
ま、この辺はサラサの沽券に関わるので、深掘りはしないでおこう。
そして、サラサは不安そうに我が子を見るのだった。
「まあ、我が国では乳母というのは馴染みがないから、不安になるのは分かるけど……。
自分が会った限りでは、とてもいい人だったよ」
バンデリックは、イーマをあやしながらそう言った。
バルディオン王国は商人出身者が多い。
その影響かどうか分からないが、基本、夫人は自分で我が子を面倒見るのが伝統である。
だが、流石にサラサの立場だとねぇ……。
戦場に赤子連れとは無理がありすぎるのである。
「う~ん……」
サラサは、珍しく煮え切らない態度を取った。
「では、1回会ってみるのは?」
バンデリックは、手を替え品を替えと言った感じで、説得に当たっていた。
乳母候補とサラサが会わなかったのは、サラサが拒否していた訳ではなかった。
出産時期に溜めていた仕事を片付けていたら、こうなっただけだった。
あ、まあ、先延ばしにはしていた事はしていたのだが……。
でも、まあ、こんなに早く戦場に引きずり出されるとは思っていなかった。
なので、切羽詰まった感じになってしまっていた。
とは言え、このままでいい訳がない。
「分かったわ。
バンデリック、あなたの真贋を信じる事にするわ」
サラサは、事ここに至っては、仕方なしと言った感じで折れた。
「分かった、今度連れてくる事にするよ」
バンデリックは、ホッとしたようにそう言った。
「キャッキャ!!」
バンデリックに抱かれているイーマは、何故か嬉しそうに声を上げていた。
サラサはその声を複雑な表情で見るのであった。




