その7
「この子は、あたしよりあなたに懐いているわね……」
サラサは、複雑な表情でイーマをバンデリックに渡した。
「そうでもないでしょう」
バンデリックは、イーマを受け取りながら一応そう言った。
そして、イーマをあやし始めた。
イーマは、キャッキャと嬉しそうにしていた。
サラサは、その光景を見ながら服を直した。
複雑な感情はあるものの、それは幸せな光景であることは間違いがなかった。
(まっ、細かいことはいいか!)
サラサは、幸せだという事に気が付くとあっさりとそう思ってしまった。
何か、やっぱり、残念である。
だって、それって、母親として、どうなの?という風になるからである。
そんなサラサの思いを他所に、バンデリックは自分も楽しそうに、イーマをあやしていた。
「キャッキャ!!」
イーマは、更に嬉しそうに声を上げていた。
でも、まあ、夫と我が子が楽しそうにしているのだ。
無理矢理割り込むのも、また、何か違うよね。
しかも、それで、サラサも幸せを感じているので、まあ、結局はまあいいかという事になる。
「ああ、そう言えば、何の用なの?」
サラサは、ふと現実に戻す言葉を発した。
艦隊司令官としては、まあ、当然の事ではある。
「ああ、そうだった」
バンデリックは、しまったと言った表情に変わった。
「しっかりしてよね」
サラサは、笑いながらそう言った。
まあ、この笑いは、自分にも呆れていたことを含んでいた。
「帝国からの援軍要請がありました」
バンデリックは、艦隊参謀長の表情に戻りながらそう言った。
だが、我が子に対する配慮は忘れずに、抱き寄せて、背中をポンポンと叩いていた。
なので、イーマは特にグズる様子は見せなかった。
「何、また!?
休む暇もないじゃないの!」
サラサは、あからさまに不機嫌になった。
「ははは……」
バンデリックは、力なく笑うしかなかった。
バンデリック自身、この命令を受けた時、そう感じたからだ。
「で、今度はどこ?
アラリオン海じゃないでしょうねぇ?」
サラサは、溜息交じりに、いや、怒気混じりにそう言った。
「ははは……」
バンデリックは、サラサの察しの良さに笑うしかなかった。
「帝国北方艦隊の戦力の確認って所かしらね……」
サラサは、呆れながらそう言った。
「表向きはそうなっていますね」
バンデリックは、意味ありげにそう言った。
「あの大公の事だから、他の事も企んでいると?」
サラサは、そう質問してきた。
「リーランに対する軍事行動である事は間違いないです」
バンデリックは、頷きながらそう答えた。
「あの疫病神が蠢動しているって所ね。
でも、我が国の諜報網には、そんな報告はないわよね」
サラサは見落としたかと感じて、確認した。
(やれやれ、疫病神と思っているのは、向こうも同じでしょうに)
バンデリックは、口に出さないようにした。
「確かに、これと言った報告はありませんね。
だからと言って、あのクライセン公が何もしていないとは考えられませんね」
バンデリックはサラサの確認に答えながら、サラサの考えている事に賛同した。
クライセン公エリオって、人物は勤勉なんですねぇ……。
「腹黒同士の探り合いに巻き込まれる方は、いい迷惑ね」
サラサは、いつも通り他者を悪者にするのだった。
「ははは……」
バンデリックは、また力なく笑うしかなかった。
それにより、自分の本心を隠しているのは明らかだった。
そう、その腹黒同士って誰と誰?と思った事をね。




