その6
サラサは、イーマに授乳していた。
(この子は、よく寝てよく飲むわね……)
サラサは、我が子の顔を見ながらそう思っていた。
サラサは母親としての自覚は目覚めたのだろうか?
傍目から見ると、うーん……と言った感じである。
勿論、サラサ自身、我が子がかわいいとは思っていた。
「総参謀長閣下がお見えです」
扉の外から、番兵が呼び掛ける声がした。
「バンデリック、1人?」
サラサは、一応確認した。
「はい」
番兵からそう答えが返ってきた。
「通して」
サラサがそう言うと、扉が開いた。
バンデリックが、扉を通り過ぎると、直ぐにバタンと扉が閉められた。
部屋の入口には衝立があり、部屋全体が見えないようになっていた。
それは、イーマが生まれた事による措置であった。
艦隊司令官であるが、母親になったサラサである。
授乳が必要な我が子を常にそばに置いていなくてはならない。
という事で、そういう体制になっていた。
でも、夫であるバンデリックは、その衝立を迂回して、サラサの元へとやって来た。
「随分と様になってきてますね……」
バンデリックは、サラサの授乳の様子をそう評した。
何せ、出産直後に寝てしまった妻である。
その後、結構心配していたのだった。
夫とは言え、サラサが我が子に対して愛情が湧くかどうかなんて分かりはしなかったからだ。
(それにサラサだしね……)
バンデリックは、サラサを見ながらしみじみとそう思った。
何事も我が道を行く人物である。
全面的にフォローはしてきたのだが、それはそれ、その時その時で対応してきた。
なので、今回の事もどうなるかなんて予想してなかったし、しても無駄だと感じていた。
そして、それはやっぱり予測不能だった。
「うーん、どうなんだろうね……」
サラサは、バンデリックの言い草に対して珍しく、煮え切らない様子だった。
サラサにしてみれば、付いていくのがやっとといった感じでいた。
それが、今の珍しさに繋がっていた。
妻となった時、まあ、あまり変わらなかったので、そんなものだと思っていた。
まあ、意識的には変えようとしていたが……。
そして、母親になる前から、身体的変化が起きた。
でも、まあ、普通に動けたので、この時もそんなものだと思っていた。
だが、出産とその後……。
人間が1人増えたのだ。
そこに、サラサは戸惑っていたのかも知れない……。
とは言え、母親としての義務はきちんと果たしている。
なので、取りあえずは問題はないようである。
でも、ねぇ、義務となっている時点で、やっぱ、サラサはあれですよね。
「ま、色々あるけど、まあ、何とかなっているので、よろしいのでは?」
バンデリックは、現在のサラサの様子を見て、そう評した。
まあ、諸々あるが、全て完璧とは行かない事はよく分かっていた。
いくらサラサでも、全てが完璧とは行かないものだと思っていた。
そんなこんなしている内に、イーマは、おっぱいを飲むのを止めた。
満足したらしい。
そして、バンデリックを見付けると、両手を伸ばしてきたのだった。




