その8
さて、戦場に目を向けましょう。
陣幕内では、来援した帝国軍の総司令を務めるマイラック公爵が書簡を読んでいた。
その書簡は、バルディオン王国からのものであり、スヴィアの拠点を攻撃する為の手筈が書かれていた。
まあ、顔を合わせて軍議を開くのが一番いいのだが、それだと時間が掛かるだけではなく、色々と不味い点も出てくる。
バルディオンの総司令部には、総参謀長であるウドベリ伯爵を派遣していた。
総参謀長を派遣するとは、軍編成は大丈夫かと思われるが、伯は戦場に出るタイプではないので、その任の方が相応しいと判断してのことであった。
マイラック公爵の麾下には、マグロッド城主のリーラック伯爵と、ミュラドラ城主のスベリア伯爵が参加していた。
両伯爵とも、マグロット攻防戦では、共に苦杯をなめた人物である。
そして、マグロッド奪還出来た現在、バルディオンに恩義を感じていた人物である。
なので、今回は、自分達で志願しての参加である。
こう言った人物が参加しているので、手伝い戦なのに、帝国軍の指揮は意外にも高かった。
サラサの苦労が報われていることとなる。
でも、当のサラサからすれば、陸ではなく、海で恩返しして貰いたいと思っているだろう。
「閣下、出撃はいつでしょうか?」
リーラック伯は、マイラック公が書簡を読み終えたのを見計らって尋ねた。
それを聞いた公は、ちょっと呆れてしまった。
書簡は、今から回し読みすることになるので、それを読めば済む事だろうと思ったからだ。
「3日後だ」
マイラック公は、呆れながらそう答えて、質問してきたリーラック伯に書簡を渡した。
「3日後ですか……」
リーラック伯は、公の答えをそのまま繰り返していた。
「……」
マイラック公は、更に呆れながらも、こちらを見ている伯に書簡を早く読めとばかりに合図を送った。
それを見たリーラック伯は、書簡に目を落とした。
「リーラック伯、逸るのは分かりますが、ここは慎重に行きましょう」
スベリア伯は、そう言いながらも待ちきれないとばかりに貧乏揺すりをしていた。
いや、武者震いとしておこう。
「……」
マイラック公は、当然、こっちの伯にも呆れていた。
「貴公だって、逸っているではないか!」
リーラック伯は、読み終えた書簡をスベリア伯に渡しながらそう言った。
「はははっ……」
スベリア伯は、苦笑いしながら書簡を受け取っていた。
(士気が高いのはいいのだが……)
マイラック公は、柄にもないことを考えていた。
こうした場合、ウドベリ伯が止めてくれるのだが、今回は、留守である。
ガミガミ言われるのが嫌で、穏便に派遣した形にしたが、これだと、いてくれた方が良かったと感じていた。
人間、諫言を呈してくれる人は大事にしなくてはいけませんね。
じゃないと、今のマイラック公みたいに、余計な仕事が増える場合がありますからね。
「この状況だと、我が方が敵の3倍となる兵力ですな」
スベリア伯が、書簡をマイラック公に返却しながら言った。
既に、勝ったとばかりの表情だった。
「敵の砦は、何重もの防御柵を構築している。
こちらの兵力が上間っているとは言え、容易に落とせまい」
マイラック公は、柄にもないという自覚の元、そう言った。
「閣下、確かに仰る通りでありますが、連携して攻撃すれば、さほど恐れることはありますまい」
リーラック伯は、そう反論した。
その隣で、スベリア伯も頷いていた。
この2人を見て、マイラック公は、フレックスシス大公の言葉を思い出していた。
「兵を損なうことのないように」
この言葉は、頭の中に響いていた。
大公は、いつもの冷静すぎる口調でそう公に言い聞かせていた。
公は、その時は、軽口でその場を切り抜けていた。
だが、今になって、その言葉がずっしりと重さを増していた。
それは、戦いに逸っている2人の伯爵によるものであった。




