その32
「ええっと……」
予想に反して、リオナは先程までのハキハキした感じはなかった。
そして、困ったように母親の方を振り返った。
(うーん、嘘はつけないのは良い事なのだが……)
エリオは、呆れていた。
見た目はともかく、まだ12歳の少女である。
なので、とりあえずは見守る事にした。
「よろしいでしょうか?殿下」
頼られた母親リオラが、部屋に入って初めて口を開いた。
表情は、ずうっとニコニコしており、言い方もおっとりした感じだった。
「どうぞ」
エリオは、妨害して話が進まなくなるのも何々で、許可した。
まあ、不穏な空気を感じない訳ではないのである。
「私共の許可は大丈夫です。
主人とも先程会いましたし」
リオラは、相変わらずニコニコしながらそう言ってのけた。
……。
男性4人は、絶句してしまった。
全員が、見ていないはずの光景が、脳裏に浮かんできてからだ。
尻に敷かれている……。
中心にいるはずのリオナが、両親から許可を貰った、特に父親から許可を貰ったという認識がないことは明らかだった。
なので、そういった結論に達するのは、4人にとってかなり容易であった。
と言うより、考える前にそういった結論に至っていた。
(クラセックがこの場にいないのは、そう言うことか!)
エリオは、その理由に得心した。
とは言え、そんな事もこんな事も今はどうでもいい。
当主として、威厳のある決断が必要なのである。
「状況は理解した。
正式な書類を揃えて、海軍府の事務方に提出するように」
エリオは、そう言った。
そして、早くこの件は終わりにしたいという事である。
「では、許可してくださるのですか?」
リオナは、キラキラとした瞳に戻っていた。
「正規ルートで、書類が受理されたのなら、私としては特に言うことはない」
エリオは、遠回しに特別扱いはしないと宣言した。
「ありがとうございます」
リオナは、そう言うと深々とお辞儀をした。
リオラの方も、同時にお辞儀をしていた。
この母子は、礼儀作法はきちんとしているようだった。
「では、そのようにしてくれ」
エリオは、この件の終了を告げた。
「ありがとうございます」
リオナは、再び礼を言うと、母親共々部屋から出ていった。
そして、扉が閉まると、歓声がこちらまで届いていたのだった。
(リーメイが、この案件をこちらに回してきたのはそういう事か……)
エリオは、何だか急に疲れてしまった。
いくらボスでも、人事面での裁決が出来ないので、当然といえば、当然である。
エリオにして見れば、変な勘ぐりをしていたのは言うまでもなかったのだった。




