その30
「フランデブルグ家ご令嬢リオナ様の事です」
クラセックは、珍しく言いにくそうに言った。
「!!!」
エリオは、驚いてクラセックの顔を見た。
他の3人も、不穏な空気を察していた。
「殿下にお願い事があるとの事です。
その取り次ぎをお願いされました」
クラセックは、更に言いにくそうに言った。
「フランデブルグの細君とご令嬢は、リーメイに頼んでいたのだが……」
エリオは、状況を把握しようとしていた。
「そのリーメイ様からも、直接お願いするようにとの事です」
クラセックは、益々言いにくそうに言った。
まあ、クラセック自身もこれがどう言う事なのかはよく分かっている。
下手したら、一家の立場を危うくしかねないのである。
「うーん……」
エリオは、考え込んでしまった。
覇気のある人物なら、怒号の一つも上げる所かも知れない。
でも、やっぱ、エリオなのである。
しかも、ボスのご下命である。
無下にすることは出来ない。
(お願いとは、何だ?
父親の扱いに対する抗議か?
いや、情報は全く漏れていないはずである。
では、何でだ?)
エリオは、難しく考え始めていた。
そのエリオを見て、ライヒ子爵もマイルスターも不味い事になったと感じていた。
「殿下、令嬢に直接聞いてみた方が早いでしょう」
シャルスは、副官らしく、冷淡にそう言った。
シャルスにしてみれば、下手な考え……と思ったのだろう。
いや、例のセンサーが反応した?
それとも、ボスからのご下命なので、慎重な姿勢を見せたと見るべきか?
「おっ、そうだな」
エリオは、シャルスに言われてハッとした。
流石に『稀代の策略家』である。
機を見るに敏である。
ではなく、普通はそうするなと思っただけだった。
「令嬢を呼んできてくれないか」
エリオは、シャルスに手配を頼んだ。
「いえ、殿下。
実は、控え室に連れてきております。
ご令嬢だけではなく、奥方様もです」
クラセックは、遠慮勝ちにそう言った。
「ならば、連れてきてくれ」
エリオは、クラセックにそう言った。
当然、それならば、一緒に来いよと言ったニュアンスも含んでいた。
とは言え、一緒に来たのは、ボスの配慮だろう。
「では、直ちに」
クラセックは、一礼すると、早足で扉に向かった。
そして、自分で扉を開けると、そのまま、2人を迎えに行った。
初老とは思えない機敏さだった。
エリオは、クラセックがいなくなり、扉が閉まるのを確認した。
「リーメイから何か聞いていないか?」
エリオは、夫であるマイルスターに聞いた。
「いえ。
と言うより、3人の面談と同時期に、細君と令嬢はリーメイと面談しているはずです。
なので、知りようがないのですが……」
マイルスターは、和やかに否定した。
と同時に、こんな基本的な流れを見落とすエリオではないので、驚いていた。
まあ、それだけ、イレギュラーな事態であることを認識していた。
なので、警戒心は上げっていた。
「そうだよな、うん」
エリオは、何か間抜けなことを言ったなと反省した。
だが、怪訝さが消えた訳ではなかった。
寧ろ、増していた。
ライヒ子爵も2人のやり取りを聞いて、同じように警戒していた。
それでは、シャルスは?
まあ、いつも以上に警戒していた。
珍しいこともあるものだ。




