その25
「畏まりました。
その条件をお受け致します」
元伯としては、その条件を受け入れるしかなかったのだった。
エリオは、人でなしである。
俺なんかやっちゃいました的な感じでいるのだが、弱味を見付けたら本当に容赦ない。
と言う事は、なんかやったいましたではなく、確実にやってお仕舞いって感じか……。
「いやいや、元伯、それは条件の前段階」
エリオは、サラッと追い打ちを掛けた。
「!!!」
元伯が、絶句したのは言うまでもなかった。
そして、第2次スワン島沖海戦で感じた恐怖は間違いなかった事を確信した。
思い出してみれば、その後の講和会議も一方的だった事を思い出していた。
となると、考える事は一つである。
亡命先を間違ったと言う事である。
ただ、これは正しくはなかった。
元伯にとっては、選択肢がなかったのである。
あの時、決断していなければ、元伯とは言え、処分されていた事は間違いがなかった。
なので、元伯の決断は間違いではなかった筈であると思いたいのであった。
まあ、確かに世の中、死んだ方がマシという場面がない訳ではない。
筆者としては、それを勧めるつもりは毛頭ないが、人間の想像力など簡単に吹き飛ぶ状況など、いくらでもあるものである。
願わくば、そう言った状況に陥らない事を願うばかりである。
「貴官に対して、中佐待遇を与える。
と同時に、我が海軍の訓練を受けてもらう」
エリオは、元伯の気持ちなどお構いなしに話を進めた。
人でなしエリオの本領は、実はここからであった。
人間、人を軽々しく評価してはいけないねぇ……。
「訓練ですか……?」
元伯は、思わぬ単語が出てきたので、明らかに戸惑っていた。
と同時に、安堵感が生まれた。
それは、大丈夫なのだろうか?
「我が海軍は、その訓練を受けた精鋭ばかり」
エリオは、誇らしくそう言った。
(私、その訓練受けた事ないです……)
傍らにいた3人は、そう思っていた。
と同時に、あんたもねという思いがあった。
そう、その訓練は特別な者以外は、受けた事がないものであった。
そうなのである。
考えてみれば、クライセン一族の訓練は、親類縁者がそれぞれ行ってきていた。
そう言う所から考えると、やはり、特別な者以外はそう言った事をしないのであった。
「なので、その訓練を受けない限り、一族の人間が認めないのでな……」
エリオは、仕方がないと言った感じで言った。
……で、その雰囲気作りをしているのは明白だった。
(大嘘!!)
傍らの3人は、更に突っ込みたかったが、口には出さなかった。
いつもの事だからだ。
「承知しました」
元伯としては、逃げ場がない以上そう言う他なかった。
本当に人でなしである。
人を完全に嵌め込んで、こういう要求をしてくるのだから……。
「ならば、起請文を頂こうか」
エリオは、堂々たる態度でそう言った。
「はっ」
元伯は、懐から封書を取り出した。
シャルスは、元伯に元に行き、その封書を受け取った。
そして、それをエリオに渡した。
エリオは、封書の中身を確かめた。
「うん、問題ない。
これで、貴官の亡命は認められた事になる」
エリオは、そう言うと、封書から視線を元伯に戻した。
「はっ、ありがとうございます」
元伯は、ここで漸く安堵したのであった。
「ところで、フランデブルグの名はここでも使うのか?」
エリオは、安堵した元伯に質問した。
「はい、ご不快でないのなら……」
元伯は、エリオにお伺いを立てた形にした。
「いや、こちらの方は、問題ない」
エリオは、そう答えた。
「ありがとうございます」
元伯は、心からお礼を言った。
フランデブルグという名は、名跡を継いだ事で、ここまで成り上がったものであり、愛着があったからだった。




