その21
所戻って、リステックとタロウザが呑んでいる酒場である。
「まあ、確かに情報部の上からの指令があったような感じですな」
タロウザは、破り捨てた手紙を思い出していた。
「やっぱり、そうだろう!」
リステックは、ほら見たかと言った表情をしていた。
だが、それは勝ち誇った表情ではなく、忌々しいと言った感じだった。
「でも、その上って、頭取のではないのですか?」
タロウザは、一応確認した。
「何を今更!
頭取は、もう名誉職で、各部の統括なんてしていないさ」
リステックは、吐き捨てるように言った。
「まあ、そうですな……」
タロウザは、言ってみただけと言った感じだった。
「情報を握っているヤツが、一番強いのさ。
だから、7つの部の内、情報部が一番強いのさ」
リステックは、何故か説明していた。
「ならば、その上からの指令の『上』って何ですかねぇ?」
タロウザは、真面目な顔をして聞いてみた。
「そんなの、あのババアに決まっているだろう!」
リステックは、おぞましいと言った感じだった。
余っ程嫌っているのだろう。
「船長、さっきからババア、ババアって言ってますが、具体的に誰なんです?」
タロウザは、更に真面目な顔をして聞いてきた。
「それは言えん……」
リステックは、急に真面目な顔をして黙ってしまった。
(確かに言ってはいけない、あの御方の名前は……)
タロウザは、リステックの態度を見て、そう思った。
「しかし、その御方は、本当に黒幕として、暗躍しているのでしょうか?
公式にはそうなっていませんが……」
タロウザは、その情報はあまり信じていないようだった。
「黒幕だから、公式になっていないのは当然じゃないか!」
リステックは、タロウザの言葉を直ぐさま切り捨てた。
「あっ、まあ、そうなんですけど……」
タロウザは、自分でも間抜けな事を言ったと思った。
とは言え、それとこれとは話が違う。
所詮は、噂レベルの話なのである。
連合の上に連盟がいるという事は。
「すまん、揚げ足を取るつもりはなかったのだが……」
リステックは、一応謝った。
とは言え、まあ、そこは指摘しておかないといけない気もする。
言った本人も納得したのだから……。
「だがな、こんな嫌らしいやり方をしてくる所がな……」
リステックは、話を続けたが、その後の言葉は言わなかった。
「誰が首謀者か、分かりませんが、確かに今回のやり方は普通じゃないですよね。
もの凄く巧妙かつ大胆でした」
タロウザは、半分同意して、半分はやはり同意していなかった。
同意していなかった部分は、あの御方の部分だった。
「そうだろう。
大恩ある御方に弓を引いた気分だよ」
リステックは、当初の予定が狂った事で、そうなってしまった事を後悔しているようだった。
(う~ん、果たしてそうなのだろうか?)
タロウザの方は、結論を保留していた。
荷は上手く届けたが、その結果がまだ出ていなかったからだ。
とは言え、落ち込んでいるリステックを見て、もう一つ確認する必要があると思えた。
「で、船長はこれからどうなさるのですか?」
タロウザは、今後の船長の身の振り方を尋ねた。
「ああ、そろそろ潮時かと思っている。
こんな風に考えてしまうと、仕事を選り好みしてしまうからな。
そうなる前に、引退しようと思う」
リステックは、あっさりとそう言った。
「そうですか……」
タロウザは、予想通りの答えが返ってきたのでがっかりはした。
だが、止めようとは思わなかった。
こういう仕事をしているのだ。
モチベーションというものは大事なのである。
「お前さんは?」
リステックは、逆に聞いてきた。
「私は、あまりそう言う事は気にしませんので、まだ続けますよ」
タロウザの方も、あっさりと答えた。
「そうか……」
リステックも、そう言っただけで、それ以上は何も言わなかった。
元伯の亡命騒ぎは、裏稼業をしてきた腕利きの船長が引退する程のインパクトのある出来事だったのだ。




