その16
「タロウザは、今回の仕事に疑問を持たなかったのか?」
リステックは、タロウザの思いとは裏腹に、いきなり話し始めた。
いや、話をさせようとしていたので、タロウザの目的は果たしたことになるのか……。
「仕事に関しては、選り好みしないようにしています」
タロウザは、あっさりとそう答えた。
こう答えることで、また話が途切れる可能性はあるが、まあ、誤魔化しても仕方がないと思っていた。
「お前はそう言う所あるよな……」
リステックは、そう言うと顔を背けた。
「ははは……」
タロウザは、力なく笑った。
これで、また振り足しに戻ったと言う思いと、自分を否定された思いからである。
リステックは、盃の酒を一気に飲み干した。
「今回は、仮にも大恩ある御方に対しての仕事だぞ!
それに対して、思うことはないのか!」
リステックは、これまま行くと悪酔いするだろう。
だが、タロウザは、空になった盃に酒をなみなみと注いだ。
この際だから、ガス抜きは必要だと感じているのだろう。
いい性格の持ち主である。
「何か、ないのか!」
リステックは、何も応えなかったタロウザに食って掛かってきた。
「この仕事をやっていると色々とありますねぇ……」
タロウザは、穏やかにそう言った。
あっ、言い忘れていたが、大恩ある御方とは、エリオの事である、たぶん。
つまり、サラサ輸送している際にシーサクに連行されそうになったのを阻止してくれた恩人だと思っているのだろう。
勿論、エリオ自身はそんな事を思ってもみなかった。
「ああ、色々あるさ!
今回みたいに、恩人に対しても弓を引くことになったりな」
リステックは、やるせない気持ちでいた。
「う~ん、それに関してはどうなんでしょうかね?」
タロウザは、リステックの意見に異を唱えた。
「どういう事だ?」
リステックは悪酔いしかけていたが、聞く耳はまだ持っているようだった。
「いえね、今回の事は、リーランにとって悪いことなのでしょうか?」
タロウザは、素朴な疑問が湧いていた。
「あのババアが裏で糸を引いているんだ。
碌でもない事になるに違いない!」
リステックは、吐き捨てるようにそう言った。
(そのばばあは、私共の最終的な雇い主でしょうが……)
タロウザは、呆れながら、力なく笑う他なかった。
とは言え、これまでの経験からすると、その人が関わると、碌な事が起きていなかった。
勿論、その人は最大の利益提供者であったのだが……。
「全く碌でもない!」
リステックは、再び吐き捨てるように言った。
2度も言うとは、やはり、嫌悪感が凄いのだろう。
「しかし、船長、今回の場合、当初は2人だったですよね。
それに家族が偶然加わっただけですし……。
あの家族は、実行の2日前に加わったのですよ。
指令も2人のみですし、家族の方は事後承諾になったというか、未だに結構曖昧ですよね」
タロウザは、現在までの経緯を話した。
当初の2人だけでは、リーランに波乱を起こすことは難しかったからである。
そして、今回の亡命騒ぎは、元伯が偶然加わっただけなのである。
「本当にそう思うか?」
リステックは、そう言うと、盃の酒を一気に飲み干した。
「どういう事です?」
タロウザは、反論されるとは思っていなかったので、驚いていた。
「ん?」
リステックは、盃をタロウザに差し出した。
「ああ、すみません……」
タロウザは、空になった盃に酒を注いだ。
これまで気遣いを忘れなかったタロウザが、驚く程の事だったのだろう。
「大体、おかしいじゃないか!
最終打ち合わせの時、伯爵とひょっこり出会うか?
そして、直ぐに合流。
ババアが裏で糸を引いていたに違いない!」
リステックは、確信を持って、酒を飲み干した。
「まあ、確かに、会談場所が書かれた封書を持っていたんですけど……」
タロウザは、その時の様子を思い出すのだった。




