その15
「久々の大仕事でしたね、船長」
キヘイ改めタロウザが、そう言った。
「……」
ボーリック改めリステックは、それに対して無言だった。
不機嫌まで入っていないが、明らかに気に入らないといった感じだった。
2人は、例の件で、サラサ達を連盟に運んだ人物であったのは言うまでもない。
(酒を飲みに来たんだから、そんなに不機嫌そうにしなくても……)
タロウザは、やれやれと言った感じで、盃に残っていた酒を飲み干した。
2人は、ルオーラの寂れた酒場にいた。
仕事の関係上、仕事先で飲みに行く事はあまりない。
だが、今回は、船長自ら長い長い同僚付き合いのタロウザを誘っていた。
誘われた方のタロウザは、今回の仕事に対して、含みがあるものだと感じていた。
船長たるもの、部下に不平不満を漏らす訳には行かないのだろうとも感じていた。
そこで、自分が誘われた事を分かっていた。
だが、酒場に入って、船長は喋りもしないし、呑みもしない。
(船長って、下戸じゃなかったよな……)
タロウザは、船長を見ながらそう思った。
反応がない。
ま、喋り掛けている訳ではないから当たり前か……。
仕方がないので、タロウザは銚子から自分の盃に酒を注いだ。
取りあえず、船長が自分から口を開くのを待つ事にしたのだ。
タロウザは、何杯かの盃を空にすると、銚子の酒が無くなった。
なので、酒の追加とついでにつまみの追加注文をした。
寂れた酒場なので、酒もつまみも旨いと言えるものではなかった。
まあ、だからと言って不味くて喰えないものでも無かった。
ただ、こう言った事情ではなかったら、進んで訪れる店ではないなと思っていた。
「き……、じゃなかったタロウザ、今回の仕事、どう思う?」
リステックは、漸く口を開いた。
気持ちの整理が付いたと言うより、いい加減、黙っていないで、口を開く事にしたのだろう。
(それ、さっき、私が聞いたのですが……)
タロウザは、そう思いながらも口にはしなかった。
円滑なコミュニケーションには、思った事を全て口にするのは良くないからだ。
「上手く行ったと思います」
タロウザは、事務長らしい答えをした。
「そうじゃないだろう!」
リステックは、思わず大きな声を上げた。
それは、寂れた酒場に響いた。
2人以外の従業員と数名の客は、一瞬、動きが止まった。
だが、そこは酒場。
リステックが暴れ出すという事はなかったので、何事もなかったようにまた動き出した。
「まあ、言いたいことは分かりますが、我々の仕事はこういう仕事ですからね」
タロウザは、更に事務長らしい事を口にした。
「それは分かっているさ!」
リステックは、やるせなくなったのか、随分放っておいた盃の酒を一気に飲み干した。
タロウザは、やれやれと思いながらも、船長の盃に酒を注いだ。
とは言え、これで、漸く事態が動いたのである。
なので、飲め飲め、話せ話せと、タロウザは誘導しているのであった。
……。
だが、リステックは再び動きを止めてしまったので、沈黙が訪れてしまった。
(酒が足りないな……)
タロウザはそう思ったが、リステックは呑んでいないので、どうしようもなかった。
さて、どうしようか?




