その14
場所は、急に飛ぶ事になる。
「ところで、例の件は上手く行っているのかしら?」
連盟の元盟主であるユリア・リオフリンがそう聞いた。
聞いた相手は、現盟主のグルス・マドックだった。
地位的には、盟主の方が上なのだが、まあ、俗に言う院政というヤツである。
マドックは、ある日の晩、現状報告の為に、ユリア邸を訪れていたのだった。
因みに、現状報告とは、連盟の政治状況の話である。
そして、質問をしたのは、その話が終わった後であった。
「例の件とは、113号の話ですか?」
マドックは、確認した。
「発令番号は、忘れたわ。
今、最も重要な案件の話よ」
ユリアは、微笑みながらそう言った。
炉○場□△の寒々しい微笑みだった。
なので、マドックは凍り付く思いだった。
113号とは、フランデブルグ元伯の亡命支援を指示したものであり、暗号でも何でもなかった。
こう言う事は、直接口にするのは憚られるのでそう言っているのだろう。
多分、例の○2に取り付かれている訳ではないと思う。
「結果報告は受けてませんが、失敗報告も受けていません。
としか、ご報告出来ません」
マドックは、ユリアの微笑みに対抗する為に、敢えて変な言い回しをした。
自分は現盟主である事をアピールしたかったのだろう。
「まあ、『便りのないのはよい便り』と言いますものね」
ユリアの方は、そんな事を意に介さずに、微笑みながら簡単に切り替えしてしまった。
「……」
マドックは、閉口するしかなかった。
ユリアとマドックは同世代だった。
そして、付き合いも長かったが、どうやってもマドックがユリアを上回る事が出来ないでいた。
ある意味、諦めたのでこう言った良好な関係(?)になっていた。
それをまた思い知らされる場面でもあった。
「確か、船長の名は、ボーリック……」
閉口しているマドックに構わず、ユリアは言葉を続けた。
「いえ、今は名前と姿を変えて、リステックです」
マドックは、ユリアの発言に訂正を入れた。
せめてもの意趣返しである。
「そう、そのリステックが運んでいるんですもの。
荷は確実にリーランに届いているでしょう」
ユリアは、マドックの訂正に眉一つ動かさずに、微笑みながらそう言った。
顔に貼り付いた微笑みではなく、本当に楽しそうである。
ただ、薄ら寒さを覚えずにはいられなかった。
「仰る通りでございます」
マドックは、ユリアに同意した。
それを見て、ユリアは満足そうに頷いた。
「とは言え、フランデブルグ伯を本当に入れても良かったのですか?
飛び入り参加みたいになりましたが……」
マドックは、ユリアのペースに乗らないようにする為に、議題を出した。
盟主の自覚によるものなか、ここは何としても、会談の主導権を握りたいのだろう。
2人の面白い関係である。
とは言え、現状を説明しに、出向いている時点で既に勝負があったようなものなのだが……。
えっ、まあ、それより重要な事がありますね。
そう、伯が飛び入り参加したと言う発言である。
「伯が入ったのは思わぬ収穫でしょ?」
ユリアは、何が不味いのか分からない様子だった。
「必ずしもそうとは言えません」
マドックは、切り返すチャンスを得たと思った。
「どういう事?」
ユリアは、特に意外と言った感じではなく、ただただ聞いてきたようだ。
「伯が入る事で、亡命が失敗する確率が上がります」
マドックは、ズバッと言った。
少なくとも本人的にはである。
「ああ、それは問題ではないわね」
ユリアは、あっさりと少し笑いながらそう言った。
「……」
あっさりと否定されたマドックは、黙るしかなかった。
「受け入れらた場合、リーラン内部に不満の種を植え付けられるわ。
失敗した場合でも、既にシーサクにダメージを与えているんだし、成果としてはそれだけで十分でしょう。
隣国が混乱するのはいい事よ」
ユリアは、微笑みながらそう言ったのだった。




