その12
面倒事に巻き込まれたルオーラ子爵リンクは、頭を抱えたかった。
サリオからエリオに代替わりした際、安定すると思っていた。
その予想は、当たっていた。
国は安定的に発展し、一族はそれに伴って繁栄している。
それは敵対勢力を意図も簡単に撥ね除けていくエリオの存在が大きいと理解している。
だが、面倒事が多い気がしていた。
サリオの代の時も面倒事が多かったが、エリオの代になってもそれは全く変わっていなかった。
でも、まあ、量はともかく、質においては全く異なるものだった。
代替わりの直後にサリオが指揮していた残存艦隊を任された。
そして、次に、アスウェルからルオーラに転封させられた。
その上で、ホルディム艦隊の半分以上を転入されられた。
更に、西方艦隊を即応部隊として整備するように命じられている。
もう要求レベルが違いすぎて、流石のリンクもこなすだけで精一杯といった感じになっていた。
そこに、今回の騒動である。
リーランの西の玄関口とも言えるルオーラでは、亡命してくる人間はそれなりに多い。
だが、今回のように、元だが、爵位を持った人間がやって来るのはリンクにとって初めてである。
歴史上においても、それ程数が多い訳ではない。
といつも通り、前向きが長くなったが、頭を抱えたいリンクに話を戻す。
「閣下、殿下からの命令です。
『各艦隊、警戒態勢を強化せよ。
不穏な動きがあった場合、直ちに報告し、行動せよ』
との事です」
副官ラルグは、命令書を読み上げた。
「殿下は、この事により、テロや内乱を警戒なさっているのですな」
艦隊参謀長ウェルスが、尤もだといった感じで頷きながら、そう言った。
「ま、実際は、殿下もそれ程警戒している訳ではあるまい。
念の為と言った所だろうな」
リンクの方は、エリオの心情をよく理解しているようだ。
そして、リンクは、ラルグに、
「で、我々に対しての命令は?」
と次を読むように促した。
ま、当然、これで終わる訳がないのである。
「はっ!」
ラルグは、流石だと思いながら姿勢を一旦正したから、
「『続報を待つ』との事です」
と最後の命令を読み上げた。
「はぁ……」
リンクは、堪らず溜息を吐いた。
ヴェルスとラルグは、それを珍しいと思いながらも、同じ心情だった。
3人は、艦隊運用の専門家ではあるが、諜報部門の専門家ではないからだ。
つまり、エリオみたいに何でも出来る訳ではない。
あっ、まあ、これは、3人の意見ですので……。
ま、それは置いておいて、諜報という慣れない仕事をうまく出来るか怪しいと思っていた。
それに対して、全面的に信頼してくるエリオ。
溜息でも吐きたくなる状況である。
エリオの信頼は、有り難いと思う方もいるかも知れない。
だけど、それって、これくらいの仕事は完璧に出来るよなという前提の上に成り立った信頼なのである。
そう考えると、3人の心境を慮りたい気持ちになってくるものである。
「さてと、最初から確認するとしようか……」
リンクは、有能で、人格的にも優れているので、苦手だとしても与えられた仕事を完遂する事にした。
「はっ」
「はっ」
直ぐに同意したヴェルスとラルグも同様な人間と言える。
「フランデブルグ伯と、艦隊参謀長サズー、副官イーグの3人は、本人で間違いがない。
これは大丈夫だな?」
リンクは、2人に確認を取った。
「はい」
「仰る通りでございます」
ヴェルスとラルグは、即答した。
自分達の艦の艦上から見たとは言え、3人とも船乗りなので目がいい。
そして、敵の顔は絶対間違えない。
そして、3人以外も同じ証言が取れていた。
なので、これは揺るがない事実であった。




