その10
「仰る通りでございます」
イチは、あっさりとそう答えた。
ここは、我が意を得たりといった感じなのだが、性格上か業務上か、分からないが、常にフラットな感情でいるのであった。
「うーん……」
エリオは、考え込んだ。
諜報局の意見は尤もだと思う。
だが、同時に、連盟には戦力、特に、外征するだけの戦力はない。
そう考えると、大陸一の海軍力の軍権を握っている人間からすると、脅威に感じないのかも知れない。
ただ、エリオは軍事力が全てではないとも思っている。
なので、商売の話に顔を突っ込むのである。
だが、こちらの経済力に関しても、連盟は西大陸で最も小さな経済力しか有していない。
その国が、経済大国である連合の背後にいるとは中々考えづらいものであった。
「決定的な証拠はありません。
そして、状況証拠もそれ程多くはありません。
というより、ほぼ無いですね」
イチは、考え込んだエリオに対してそう言った。
でも、これは、説得ではなく、寧ろ逆である。
「ならば……」
エリオは、反論しようとした。
「しかしながら、軍事力や経済力以外にも脅威になり得るものがあるという事は、殿下もお分かりでしょう」
イチは、まだ説明が終わっていなかったので、続けた。
ま、形としては、エリオの言葉を遮った事になるが、まあ、両人共に気にしていないのは明白だった。
「謀略か……」
エリオは、そう言うと、また考え込んでしまった。
……。
当然、そうなっては、沈黙が訪れるだけだった。
「局長は、先の内戦に関して、連盟が関わっていると思っていますか?」
マイルスターは、いきなり違う角度から質問した。
「いえ、そういった証拠は得ていません」
イチは、正直に答えた。
「ならば、連盟の脅威はそれ程ではないのでしょう」
マイルスターは、イチの答えからそう結論を出した。
「いえ、証拠がないと申し上げたのは、関わりがあるかどうかさえ、分からないという事なのです。
私共の能力が足りないのは重々承知しておりますが、動きが掴めないという点ではかなり脅威であります」
イチは、何故自分達がそう考えているかの説明を加えた。
とは言え、正直言ってどうなのかと思われる。
やっていない証拠を見付けるのは、ほぼ不可能だからである。
「諜報局の考えは分かった。
連盟の件は、追々解決していくしかないだろう。
それよりは、今は、現在進行中の件が優先される。
そっちをやって貰おうか」
エリオは、取り留めない話に終止符を打つ事にした。
面倒くさがりのエリオだからそうしたという訳ではなかった。
何か雲を掴むような話になってきたと感じたからだった。
なので、どちらかと言うと、合理主義の顔が覗いたと言っていいだろう。
「確かに仰る通りでございます。
早速取り掛かるとします」
イチは、素直にエリオの言う事に従い、一礼すると、踵を返した。
その瞬間、妙な空気が和らいだ。
どうやら、知らず知らずのうちに、変な方向に行っていたと3人は感じた。
「ただ、殿下。
思わぬ所で、足を救われないようにご注意なさってくださいませ」
イチは、扉を通る前に、こちらに振り返ってそう言った。
!!!
その言葉を聞いた3人は、グキリッとした。
イチの言葉は不吉そのものだったからだ。
ただ、それは忠臣からの警告でもあった。
その言葉の後、扉が閉められて、イチの姿がいなくなった。




