その9
「しかし、元伯爵とは言え、艦隊司令官を務めた人物。
亡命に動いているとなると、諜報局がその動きを掴めていていい筈。
なのに、今回はどうしてだ?」
エリオは、疑問を口にした。
本人にしてみれば、特にイチを責めている訳ではない。
また、煽っている訳でもない。
でも、ねぇ、対象にされた人物としては、どちらかに取る訳である。
なので、イチは、頭をポリポリと掻いていた。
ただ、表情と態度からは、申し訳なさは微塵も出ていなかった。
流石に、諜報局局長と言った所だろう。
「正直な事を申し上げますと、今回の事は、私共も寝耳に水です、完全に」
イチは、何の感情のない口調でそう言った。
感情がない分、組織としての焦りを感じ取れるものであった。
「ほう……」
エリオは、諜報局が全く情報を得られなかった事に関心を持った。
フランデブルグ元伯は、シーサク王国の13貴族と同レベルで、諜報対象になっていた人物である。
そのレベルなのに、何故今回諜報が失敗したのかに興味があった。
「原因が分からない以上、詳細な分析が必要かと思われます」
この言い方は、一応、イチが進言した事になる。
「そうだな、それは必要だな」
エリオは、イチの進言に対してそう即答した。
事が現在起こっているのだ。
そんな事をしている場合じゃないと考えるのが普通である。
だが、何故諜報が取れなかったのもかなり重要な案件と考えたのであった。
「畏まりました。
早速、取り掛かる事にします」
イチは、エリオの許可を得て、動き出すようだ。
「殿下、現在進行中で、事が起きております。
そちらの対応の方が必要では?」
マイルスターは、総参謀長らしく、そう注意を促した。
「そっちは、そっちでやって貰う。
ただ、諜報活動が機能しなかったのは、組織的な問題があるのかも知れない。
そう考えると、早めに対処しなくてはならない」
エリオは、そう応じた。
考えていないようで、考えているのがエリオである。
その真骨頂が発揮された場面である。
「了解しました」
マイルスターは、和やかにそう言って、それ以上はこの件に関しては、何も言わなかった。
エリオの意図を理解したのだろう。
「で、問題なのが……」
エリオは、珍しく話を元に戻そうとした。
「はい、現状、国内外共に、目立った動きがありません」
イチは、エリオが皆まで言う前にそう言った。
「うん……」
エリオは、戸惑っていた。
亡命の話で、既に戸惑っていたのだが、それにしても、周りの動きが全くない。
確認の為に出張ってきたものの、状況の見落としがない事で戸惑っていたのだった。
今回の話自体が突拍子もない事である。
なので、その動きの余波がある筈である。
だが、それすらない事が、とても気味が悪いのである。
「今回の亡命の話が公になった場合、シーサク王国はどう動くと思う」
エリオは、イチにアドバイスを求めた。
「断定は出来ませんが、やれる事は少ないと思われます。
ものの見事に、伯爵をルオーラに亡命してきたのです。
下手に手出しが出来ないでしょうから、精々抗議してくるのが関の山でしょう」
イチは、そう答えた。
だが、その位の事は、予測しているでしょうという口振りだった。
「となると、関わった連合による我が国の分断工作のみに注意すればいいのか?」
エリオは、更に質問を重ねた。
「現状ではそうなると思います。
ただ、連合の背後にいる存在には気を付けた方がよろしいかと思います」
イチは、次々と重要な事を言っているのだが、口調からそういった印象を全く受けない。
「背後というと、連盟の事?」
エリオは、どういった感じで話をされようが、重要な事を見逃さなかった。
この言葉に、マイルスターだけではなく、シャルスも敏感に反応したのは言うまでもなかった。




