その4
翌日、エリオはいつものメンバーで執務を行っていた。
艦隊戦にかまけて、事務処理が積み重なっていたのを漸く処理出来たという様子だった。
そこに、例の人間が突撃してきた。
「殿下、ミモクラ侯爵閣下がお見えです」
ノックと同時に、扉の向こうから門番の声がした。
エリオは、当然嫌な表情になった。
以前と同じ事になるからだ。
とは言え、通さない訳には行かない訳でもなかったが……。
でも、まあ、常識人である、いや、それを自負しているだけのエリオは、拒むことをしなかった。
「お通ししてくれ」
エリオは、扉に向かってそう言った。
すると、間髪空けずに扉が開けた。
クルスが自ら開けたのだった。
その横で、所在なさげに扉番が困っていた。
エリオ以下、2名はやれやれと思っていたが、クルスは、構わず部屋の中に入った。
直ぐに部屋に入ってくれたお陰で、扉番は自分の役割を取り戻し、扉をゆっくりと閉めることが出来た。
「殿下、この度は、2人目、おめでとうございます」
クルスは、エリオの前に歩いて行きながら、そう言った。
エリオは頭を抱えそうになったが、しなかった。
マイルスターとシャルスは、顔を見合わせた。
前回も、こんな形で知らされたなあと言う感じだろう。
「ありがとうございます」
エリオは、とても礼を言っている表情でなかったのは言うまでもなかった。
そして、礼を言いながら、クルスにソファを勧めた。
「これは、ありがとうございます」
クルスは、礼を言うとソファに座った。
「……」
エリオは、それを見ながら無言であった。
そして、決して、その向かいの席に移動しようとはしなかった。
それと、前回と同様の質問はしないことにした。
クルスが、ここに来たと言う事は、リーク元は簡単に想像出来ていた。
そして、向こうはお祭り騒ぎになっているだろうという事も前回から想像が出来ていた。
ただ、クルスの方としては、エリオの反応が薄いので、もの凄く面白くなかった。
「それにしても、流石です、殿下。
お仕事が早い!」
クルスは、上級貴族らしからぬ事を口にした。
いや、言い方からすると、上級貴族らしいのかも知れない。
「いやいや、貴公の方こそ、先月、2人目が誕生したではないですか」
エリオは、負けじと謙遜を装いながら反撃した。
クルスの方は、先月、2人目の男子が誕生していた。
クルスは、エリオに上手く返されたものの、余裕の笑みだった。
まあ、どちらも目出度い事に変わりがないのだから、笑ってしませられたのだろう。
「これで、クライセン家とロジオール家共に安泰ですかな!」
クルスは、そう応えて見せた。
クルスの子の長男は、将来の王配になる予定であり、次男は、ロジオール家を継ぐことになる。
リ・リエは、将来女王となり、リ・リラに新たに宿った子は、クライセン家の跡取りとなる。
「まあ、そう言う事ですな」
エリオは、そう言った。
それを見ながら、クルスは、エリオが本当に分かっているのか疑問に思った。
とは言え、そこは長い付き合いである。
そこを突っ込んでも仕方がないと踏んだのであった。
「ところで、2人の方はどうなんだい?」
クルスは、マイルスターとシャルスに当然、話を振った。
シャルスは、直ぐに首を横に振った。
だが、マイルスターは、ちょっと躊躇っていた。
「うん、どうしたんだい?総参謀長」
クルスは、何か言いたいが、遠慮しているようなマイルスターに話すように促した。
マイルスターは、それでも躊躇った。
が、エリオの方を見た瞬間、エリオが聞く体制に入っていたのが目に入った。
「実は、執務の後に報告しようと思っていた事なのですが、私共も子を授かりました」
マイルスターは、珍しく照れたようにそう言った。
あ、勿論、子が生まれたというのではなく、リーメイの懐妊が分かったという意味である。
え?分かっているって?
「それは、おめでとう」
クルスは思わぬ報だったが、素直に祝福した。
直ぐに言葉が出てくる所が、流石である。
「おめでとうございます」
シャルスも笑顔で祝福した。
「それはめでたいな」
エリオも続いてそう祝福したが、驚いてもいた。
(偶然って、重なるもんだな……)
エリオは、頭の中でそう思っていた。
が、果たして、それでいいのだろうか?という疑問がない訳でもない。
「流石に、クライセン家。
これで、益々一族が繁栄する訳ですな」
クルスは、エリオを揶揄うように言った。
やはり、行き着く先はこうなるのである。
とは言え、これは、ある意味、クルスのエリオへの対抗心から出た言葉でもあった。




