その3
海戦後、エリオとサラサは、ほのぼのとした生活を営んでいた。
太陽暦538年6月の夕食時もその雰囲気は続いていた。
エリオは、リ・リラといつも通り夕食を取っていた。
リ・リラは何時になく上機嫌であった。
何か、あったなと察する程、エリオは鈍くないのではなかった。
「エリオ、子供が出来ました!」
リ・リラは、飛びっきりの笑顔でそう言った。
「???」
エリオは、目の前の魚に手を付けようとした所で固まった。
当然、リ・リラが何を言っているか、分からなかったからだ。
(えっ?子供なら、リ・リエが隣の部屋に……)
エリオは口にこそ出さなかったが、そう思いながら隣に通じる扉を見た。
間抜けすぎる。
口にこそ出さなかったが、それを直ぐに感付いた者がいた。
給仕をしている侍女長ミーメイだった。
ミーメイは、エリオの手を付けようとした魚料理の皿をサッと引っ込めた。
お預けを食らったエリオは、口を開けたまま、ミーメイを見るしか出来なかった。
抗議しようものなら、どうなるか分からないからだ。
ミーメイは、別に意地悪した訳ではなかった。
あっ、いや、正確には違うな……。
頭に来た事は確かだが、そこは侍女長。
2人の関係をスムーズに運ぶ心得は持っていた。
間抜けた表情のエリオに対し、無言でシグナルを送った。
リ・リラをよく見ろと!
エリオは、ミーメイからリ・リラに視線を移した。
リ・リラは、エリオ見詰めながら自分のお腹を愛おしそうにさすっていた。
(あっ!!)
エリオは、漸く分かったようだ。
前もそんな仕草をしていた事を思い出したのだった。
それが分かった途端、また、バグったのであった。
「おめでとうございます」
エリオは、また変な事を口走ったである。
本当に、成長しない。
「何よ、それ!」
リ・リラの方は、笑いながらそう言った。
妻となり、母親となったリ・リラは、どんどん心が広くなっていくようだ。
自分の地位が安泰だからか?
それとも、エリオに対する優位性が完全に確立したせい?
もしくは、人間として成長したからだろうか?
まあ、何れにしろ、逆の方に行かなくて良かったのである。
結婚前はこうじゃなかったと言う事が、男女問わずにありますからねぇ……。
なので、エリオはもっとリ・リラに感謝するべきかも知れない。
「じゃなくて、えっと……。
ありがとうございます」
エリオは、更にバグっていた。
「そうじゃないでしょ。
あなたの気持ちは?」
リ・リラは、更に笑いながらそう聞いてきた。
あっ、でも、お礼を言うのは間違いじゃないんじゃないかな?
「あっ、とってもうれしいよ」
エリオは、いつも殆ど見せない笑顔でそう言った。
「うん、よろしい」
リ・リラは、今度は幸せそうに笑った。
その後、夕食は進んだが、没収された魚料理は最後まで還ってこなかった。
ミーメイが、エリオに落第点を付けたのだろう。
でも、今回は、何故夕食後ではなかったのだろうか?
それは、リ・リラが幸せすぎて待ちきれなかったからであった。




