その1
第4次アラリオン海戦後、エリオは王都カイエスに帰還した。
エリオは、港に着くと、事後処理をマイルスターとシャルスに任せると、そのまま王宮へと向かった。
海戦の速報は、既に女王リ・リラに届いているはずであり、詳細な報告が後日にする。
なので、挨拶に出向くと言う事である。
夫婦なので、その辺はという訳には行かず、女王と海軍総司令官としての仕事を有耶無耶に出来ない2人であった。
エリオは、襟首を正し、なるべくしゃんとした格好で、女王の執務室の前に立った。
すると、親衛隊の門番の2人が敬礼し、1人が、扉をノックした。
厳かな空間に、幼い笑い声が部屋の外まで漏れていた。
(あれ??)
エリオが、拍子抜けしたのは言うまでもなかった。
「王配殿下が、いらっしゃいました」
親衛隊隊員は、それでも厳かな雰囲気を守ろうとしていた。
中からは、リ・リラのあやしている声も聞こえてきていた。
なので、一瞬、間が空いてしまった。
「あっ、ああ、通して」
リ・リラの方は、別に取り繕う様子もなく、そのままの口調で応じた。
一応、許しが出たので、親衛隊隊員の2人は、ゆっくりと扉を開けた。
エリオは、開けられた扉を通り、中に入った。
そこには、リ・リエをあやしているリ・リラがいた。
その傍らには、乳母であるホヅミが困り顔でいた。
(やれやれ……)
幸せ空間に入ったエリオは、呆れていた。
とは言え、悪い気はしなかった。
でも、ここは敢えて、しゃんとした。
「クライセン公エリオ、ただ今帰還いたしました」
エリオは、そう言うと敬礼した。
「ご苦労様」
リ・リラは、リ・リエをあやしながらそう言った。
エリオは、当然更に呆れていた。
そんな中、先程まで笑っていたリ・リエが笑わなくなっていた。
じっと、エリオの方を見ていた。
それを見たエリオは当然困惑していた。
元々コミュ力が乏しいエリオである。
赤ん坊に対して、どう接していいか、未だに分からないでいた。
「そうそう、パパが帰ってきましたね」
リ・リラはそう言うと、リ・リエを抱き上げると、エリオの前に立った。
そして、リ・リエをエリオの方に差し出した。
「!!!」
エリオは、びっくりしながらもリ・リエを受け取った。
当然更に困惑していたが、拒絶する訳でもなく、自然な動きだった。
リ・リエの方は、嫌がるどころか、無表情のまま進んでエリオの方に行った。
赤ん坊の無表情も不思議ではあるが、その行動も不思議である。
(困ったな、笑うでもなく、泣く訳でもない……)
エリオは、いつも通りのリ・リエの反応に困っていた。
リ・リエの方は、そんな事お構いなしだった。
無言で、両手を伸ばすと、エリオの顔をいじりだした。
「いででで……」
エリオは、鼻や耳を引っ張られた挙げ句、口の中に手を突っ込まれて、唇を引っ張られた。
どうやら、リ・リエはエリオの顔で遊んでいるようだった。
無表情なので、多分、一生懸命、遊んでいるのだろう。
その光景を、リ・リラはほのぼのとした感情で見ていた。
つまり、止める気はないのであった。
エリオが涙目になった時、リ・リエは電池が切れたように動かなくなった。
そして、スヤスヤと寝息を立てていた。
「その子、あなたがいないと寝付きが悪くてね。
戻ってきてくれて、良かったわ」
リ・リラは、無邪気にそう言った。
「はぁ……」
エリオは、当然、納得は出来ないでいた。
とは言え、娘とのコミュニケーションが上手く取れていない自覚があったので、これはこれでいいのかも知れない。
スヤスヤと寝ている娘を見ながら、その幸せを噛み締めるのであった。




