その32
「う~ん、足が止まらないねぇ……」
総司令官が、他人事のように呟いた。
いや、その言葉、全員に聞こえてるんですけど!
(やれやれ、どうして、こう、人を煽らないと気が済まないのですかねぇ、この御方は……)
マイルスターは、和やかな表情で事の推移を見守る事にした。
エリオのこの言葉に、水兵達は声も上げずにいきり立っていたのは、言うまでもない。
ま、いつもの事か……。
ただ、エリオはただこの状況を口にしただけであり、砲弾が当たらないのは、水兵達のせいにしている訳ではなかった。
水兵達は、当然、自分達の腕が悪くて当たらないと解釈していた。
つまり、やるか、やられるかの状況なのである。
「間もなく、敵艦隊の有効射程に入ります」
一触即発の雰囲気の中、シャルスの報告が響き渡った。
これは、こちらの方も全艦が有効射程に入る距離になるという事でもある。
「……」
意外な事に、エリオは、シャルスの報告に全く無反応だった。
(あれあれ?)
マイルスターは驚くと共に、和やかに固まった。
ま、固まっているのはエリオも同じなのだが……。
でも、まあ、水兵達は固まる事なく、自分の仕事をこなすべく動き回っていた。
なので、問題がないのだろう、たぶん……。
「敵艦隊、有効射程内に入りました」
フィルタが、そう報告した。
「よし、砲撃開始!」
サラサは、躊躇なく命令を下した。
ドッカーン!
鬱憤を晴らすかのように、全艦の砲門が火を噴いた。
砲弾は放物線を描いて、エリオ艦隊へと向かって行った。
漸く、自分達が砲撃出来る位置までやって来たので、サラサはこれからだという思いがあった。
「敵艦隊、発砲」
シャルスは、冷静にそう報告した。
エリオが命令を出さなかったからと言って、敵は待ってくれないと言わんばかりだった。
バッシャン、バッシャン!!
報告から間髪空けずに、海面に砲弾が降り注いだ。
サラサ艦隊からの砲撃である。
それだけでは済まないとばかりに、エリオ艦隊を揺さぶった。
一部は至近弾として、着弾していたからだ。
それを見たエリオは、何の反応を見せなかった。
流石の総司令官!
こんな事では、動揺しないと、誰もが思っていなかった。
そう、また、碌でもない事を考えている、いや、前から考えていたなとばかりの痛い視線がエリオを貫いていた。
ただ、エリオが全く動じていないので、水兵達も負けじと動じないようにしていた。
これは、真剣勝負なのである。
ただ、戦う相手を間違えているに過ぎないのであった。
「第2射、砲撃準備完了!」
フィルタの方は、意気揚々と報告した。
当然である、
これまで一方的に撃たれまくっていた状況が一転し、撃ち合いに突入するのだ。
気合いが入らない訳がない。
況してや、最悪の敵と称されるエリオ艦隊である。
否応にも、気分が盛り上がってくる。
それは、サラサも同じだと考えていた。
「……」
当のサラサは、エリオ艦隊の反応の鈍さに戸惑っていた。
不思議なものである。
迷将というのは、こういう妙な行動に、敏感に反応してしまうのだった。
とは言え、エリオ艦隊からの砲撃がない訳ではない。
だが、予想していたものとは違っており、4艦からの砲撃のみであった。
(おかしい……)
サラサは、罠の存在を気にする他なくなっていた。
「サラサ、チャンスですよ」
バンデリックは、サラサに対してそうアドバイスした。
敵の思惑は気になるものの、ここで砲撃しない手はない。
「砲撃!」
サラサは、バンデリックの言いたいことをすぐに察し、攻撃命令を出した。
ドッカーン!




