その30
「閣下、ワタトラ艦隊が交戦状態に入りました」
副官ロデックが、ハイネル伯に報告した。
「よし、我々も動き出すとするか!」
ハイネル伯が、意気揚々にそう言った。
こう言う所を見ると、元来、戦好きなのだろうか?
それとも、駆け引き上手なのだろうか?
何にせよ、戦場が活発化するのは明らかな展開である。
この物語も、いよいよか!
「主役は遅れてやって来るって、所ですか?」
ロデックが、ボソッと言った。
「!!!」
クラーは、思わずロデックを凝視してしまった。
ハイネル伯とロデックとの付き合いはまだ短い。
だが、時折、ドキッとするような毒舌家振りをロデックは披露するのをたまに見掛ける。
ちょうど、その場面に当てはまるのだった。
「いやいや、最初に逃げ出したんだ。
主役には、なれんさ」
ハイネル伯は、笑みを浮かべながらロデックの毒舌を流した。
とは言え、何かキザったらしかった。
まあ、伯の仕草はともかく、客観的に自分の実力は把握出来ているようだ。
性格が真逆な人間を傍に置いている事からも、伯は驕り高ぶる性格ではないようだ。
それでも、チャラさは隠し切れないのだが……。
「……」
ロデックは、ハイネル伯の答えに対して、特に反応を示さなかった。
この辺は、伯の扱い方を熟知しているやり方だった。
クラーは、2人のやり取りを見て、疲れる思いをしていた。
だが、ハイネル伯は、クラーの方を見ていた。
意見を求めているようだった。
「閣下、今、動くのは正しいと思われます」
クラーは、何とか、艦隊参謀長としての役割を果たした。
ある意味、クラーが3人目として加わることにより、より完成されたトリオになったと思われる。
まあ、それは兎も角として、友軍が交戦しているのに、黙って見ている訳にはいかないのである。
「そうだな」
ハイネル伯は、何故か満足そうに頷いた。
そして、
「全艦、前進。
敵総旗艦艦隊の左翼を襲うぞ!」
と命令を下したのだった。
ハイネル艦隊は、伯の命令通り、動き出したのだった。
サラサ艦隊は、エリオ艦隊の右翼方向から接近していた。
つまり、ウサス・バルディオン連合艦隊も、敵を挟撃すべく動き出したのだった。
両軍とも、基本に乗っ取った戦術と言える。
数的には、どちらかが有利という状況ではない。
ただ、兵力分布が、そうではない。
4艦隊の内、エリオ艦隊が一番少ない。
となると、この挟撃戦は、リーラン側に不利になるだろう。
それを見越してのハイネル伯の前進であった。
でも、まあ、相手はエリオである。
(クライセン公は、戦術的には数的不利なぞ、ひっくり返す能力がある。
気を付けねば!)
クラーは、口には出さないが、これまでの経験を思い出していた。
そして、そうならない為にも、すぐにもアドバイス出来る体制を整えていた。
「閣下、敵、中央艦隊を視認!
こちらに接近してきます!」
ロデックは、急報を告げた。
「うぁ、こっちに来るんだね」
ハイネル伯は、ニヤリとした。
正直、頭を抱える状況である。
だが、何でか、ニヤリとしてしまう。
チャラさが身に付きすぎているのだろう。
ま、それは兎も角として、エリオは、予備兵力を自分の陣形の強化に使うのではなく、ハイネル艦隊の牽制に持ってきたのだった。
(クライセン公は、寡兵でワタトラ伯を抑えられると思っているのか!)
クラーは、唖然としていた。
「いや、こりゃ、役者が違いすぎるな!」
ハイネル伯は、感心したようにそう言った。
「閣下、如何なさいますか?」
ロデックは、方針を決めるように、促してきた。
成る程、この艦隊がまともに動くには必要な措置である。
「逃げ出す訳にはいかないな。
攻撃目標を敵中央艦隊に変更!」
ハイネル伯は、命令を変更した。
-艦隊配置-
W EC C
SR×
H
EC:エリオ艦隊、W:西方艦隊、C:中央艦隊
SR:サラサ艦隊、H:ハイネル艦隊




