その29
「艦隊、回避運動!」
エリオ艦隊を睨み付けていたサラサが、いきなり命令を出した。
悠然としていたサラサ艦隊に、サラサの怒鳴り声が響いた。
「!!!」
フィルタは、突然の命令に固まってしまった。
これから、一気に敵との距離を縮めようとしているのに、真逆の命令を出されたからだ。
「全艦、回避!
敵からの砲撃に備えよ!」
バンデリックは、すぐにサラサの命令を復唱した。
それにより、伝令係がスムーズに動き出した。
そして、サラサ艦隊は一斉に散開・回避行動に移った。
「あっ……」
フィルタは、自分の職務を忘れてしまったことに気が付いた。
ピカッ
遠くに閃光と煙が見えた。
それは、砲撃によるものであった。
バッシャン、バッシャン!!
間髪空けずに、砲弾が海面を叩いていた。
フィルタが、何か言おうする前に、戦況が動いたのだった。
ただ、フィルタも只の副官ではなかった。
サラサが何故回避指示を出したのかが、すぐに分かった。
と同時に、戦慄が走った。
(最悪の敵って、そう言うことなのか……)
フィルタは、自分の認識の甘さを思い知った。
着弾ポイントが、サラサ艦隊の最先端だったからだ。
回避しなければ、撃沈される艦が出ないまでも、被弾した艦が出たのは明らかだった。
それにより、足を止められ、更に痛撃を加えられる。
そう思うと、何かが込み上げてきて、吐きそうになっていた。
「各艦の距離を確認!
回避運動ししながら、進路、そのまま!
一気に距離を詰めるわよ!」
サラサの叱咤激励が飛んだ。
フィルタの事を構っている場合ではない。
「各艦の距離を確認し、僚艦同士の衝突を回避!
進路はそのまま!」
フィルタは、サラサの命令を伝令係に指示した。
どうやら、すぐに立ち直ったようだ。
そうでないと、指揮官の副官は務まらない。
戦況は一刻一刻変化する。
立ち止まった瞬間、やられてしまうのだ。
それを今、痛い程自覚したフィルタだった。
そんなフィルタを見たバンデリックは、満足そうに頷いた。
「4番艦、7番艦は一旦進路を北に取って回避!」
サラサは、また次の指示を出した。
それをフィルタが、全艦に伝わるように指示を出した。
司令部は、上手くフル回転していていた。
ヒューン、ドーン!
バシャ、バシャーン!
4番艦周辺に着弾が集中した。
エリオもサラサもどの位置が艦隊陣形を保つ為のポイントがよく分かっていた。
その為の攻防が繰り広げられていた。
その後も、あちらこちらに回避命令と攻撃が続いていった。
(閣下も凄すぎるが、向こうも変すぎる……)
フィルタは数々の命令を受けながらそう思っていた。
予知とも思える命令で、サラサ艦隊の被害はほぼ無い。
(流石に閣下だな……)
フィルタは感心していたが、サラサの表情を見て考えが変わった。
サラサは分かりやすい人間である。
マグロット攻防戦とは違い、今は、かなり熱っぽくなっていた。
(敵の攻撃は上手くかわしているが、中々距離が詰められない……)
フィルタは、サラサが熱っぽくなっている理由を悟るのだった。




