その3
しかし、急報が入っているのにも関わらず、こんなにのんびりしてていいのだろうか?
エリオのま……、じゃなかった、いつも通りの表情を見ていると、普通はそう思う。
だが、いつも傍らにいるマイルスターとシャルスは、やれやれとは思うが、焦ってはいなかった。
それは、現在の状況は、即断即決が必要な戦闘状態ではないからだ。
即断即決が必要な場合は、エリオは過不足なく、命令を下している場面をいつも目にしている。
いや、それどころか、そんな所まで考えているのかと言った命令が飛んでくるのも珍しくはない。
つまり、2人は、エリオに対しての絶対的な信頼を持っているという事だろう。
この辺が、『漆黒の闇』が持つ別の一面であり、軍の統率が行き届く要因になっていた。
そのエリオが、これだけのんびりというか、勿体ぶって命令を出さないのだ。
ボケッとしているようで、何か考えているに違いないと2人は思っていた。
そして、その事に注目していることは言うまでもなかった。
現状、1秒の遅れが、致命的になる場面ではない。
命令は勿論、早い方がいいが、今は考える時間がある。
そして、エリオの統率が取れているせいかなのか、クライセン各艦隊は優秀である。
この情報は、直ぐに各艦隊に伝わり、エリオの命令がなくとも、警戒出撃体制を整えている筈である。
実際、そうでなかった事はなかったのだった。
なので、後はどういった作戦を取るかを待つだけという状態になっている筈である。
そうなると、少しの遅れよりも、最初に出した作戦を変更される方が、致命的なものとなる。
即断即決も結構だが、後から、あの要素を考えてなかったという風にはならないようにしなくてはならない。
「まあ、こちらも新造艦隊を旗艦艦隊に編入して出撃と行きたい所だが……」
エリオは、長い沈黙の後にそう口を開いた。
「お互い、新編成同士の戦いとなりますが、何か、気になる事がお有りですか?
ワタトラ伯の事ですか?」
マイルスターは待ち構えてましたとばかりに、尋ねてきた。
「ワタトラ伯か……。
正直、来てほしくない人間ではあるな……」
エリオは、心底嫌そうな表情をしていた。
サキュス沖海戦の事を思い出しているのは明らかだった。
「……」
マイルスターは、無言で和やかに苦笑いをした。
そして、今回の懸念点は、そこが最大ではないと感じた。
ならば、どこにあるのか?
「……」
エリオは、マイルスターが突っ込んでこなかったせいか、こちらも沈黙してしまった。
まあ、何か考えているのは明らかだったが、いつもの表情である……。
「迎撃する艦隊は、如何なさいますか?」
マイルスターは、違う事を尋ねた。
ここで、ズバッとエリオが考えている核心を聞いてもいいのだが、あまりいい手ではないとの判断だろう。
その辺は、エリオと付き合っているうちに気が付いた事である。
まあ、ぶっちゃけ、その核心よりも話を先に進めないといけない。
と言うか、とっとと、仕事しろという事である。
「新造艦隊を編入した総旗艦艦隊、中央艦隊、西方艦隊で迎撃。
東方第1艦隊は、王都の守りに当たらせる」
エリオは、直ぐにそう答えた。
その答えから、既に作戦の基幹部分は考え終わっているようだった。
それに関しては、マイルスターもシャルスも安心したというより、当然といった表情をしていた。
なので、聞き流していた。
「西方艦隊は、バルディオン第2艦隊の追尾として、ウサス帝国の北方艦隊はどういう編成で迎撃なさるのですか?」
マイルスターは、追及の手を緩めなかった。
「総旗艦艦隊で事に当たるのが、いいと思っている……」
エリオはそう言ったが、断定ではなく、煮え切らない様子だった。
「何か、ご懸念でも?」
マイルスターは、漸くエリオが懸念している所を見付けたと感じていた。




