その22
「敵艦隊発砲」
向こうと同じく、副官のロデックが報告してきた。
バッシャン、バッシャン……。
そして、同様に、報告後に海面に着弾した。
ここまでも同じだった。
そして、指揮官の反応までも同じ……?
いや、ハイネル伯は、爽やかな分、暗い印象がなかった。
なので、周りもそんなに深刻には受け止めていなかった。
こっちが撃ったのだ。
向こうが撃ち返すのは当然と思っていた。
今は、ハイネル艦隊ではあるが、前はハイゼル艦隊だったのだから、エリオ艦隊との激闘は何度も経験している。
その意味では、艦隊全体の動揺が全くなかった。
「うーん……」
ハイネル伯は、考え込んでいたのだが、纏う空気がそうではなかった。
「閣下、第2射の準備出来ていますが……」
ロデックが、指揮官が命令を下さないのを見て、戸惑っていた。
恐らく副官のロデックが、最初に指揮官の異変に気が付いたのだろう。
その戸惑いがあったお陰で、違和感が周りにも伝達していった。
「第2射、砲撃せよ」
ハイネル伯は、いつも通りの表情で命令を下した。
命令が遅れたが、当初の予定通りの命令だった。
「全艦、砲撃!」
ロデックが、伝令係に指揮官の命令を伝達した。
ドッカーン!ドッカーン!
ハイネル艦隊から、再びエリオ艦隊へと砲撃がなされた。
(いかんな……)
クラーは、指揮官の異変に気が付かなかった事に対して焦っていた。
ロデックは長年ハイネル伯と行動を共にしていたので、チャラい笑顔の中にも戸惑いなどを感じる事が出来た。
だが、クラーは、自分はまだその段階にいない事を思い知らされた。
当初の予定通り、ただただ慎重に事を進めているだけだと思っていたが、どうやら違うらしい。
「閣下、何か、ご懸念でも?」
クラーは、率直に尋ねる事にした。
観察していても仕方がない事だからだ。
「意外に早く撃ち返してきたので、驚いたよ。
クライセン公は、こんな距離でも撃ってくるのかい?」
ハイネル伯は、ニコニコしながらそう聞いてきた。
深刻そうに考えていないようだが、そうでもないのかも知れない。
「その都度、その都度、対応は変わっていましたね」
クラーは、ハイネル伯の質問に端的にそう応えた。
しかし、心情は複雑であった。
これまで、どれだけ、煮え湯を飲まされてきたかを思い出していたからだ。
「私が言うのも何々のだが、この距離では当たりそうにはなかったけど」
ハイネル伯は、この距離で撃ち返してきた理由を考えているようだった。
「そうですな、今の敵の艦隊編成では難しい距離ですな」
クラーは、ハイネル伯に同調した。
「前の編成では、当てられる距離なのか?」
ハイネル伯は、相変わらず笑顔だが、驚いてはいるようだ。
ただ、彼の名誉の為に言っておくが、事前に情報を仕入れていなかった訳ではない。
実際にその場に立たされた場合と資料で読む場合で、実感が湧かないというか、整合性がとれないというか、そう言った感覚になる場合が多い。
「まあ、それでも、ちょっと遠いかも知れません」
クラーは、ハイネル伯の驚きにそう答えた。
「ならば、何故撃ってきたのだ?」
ハイネル伯は、更に質問してきた。
ハイネル伯が得た情報では、エリオは合理主義者であった。
そのエリオが、無駄な事をするとは到底思えなかったのだった。
そう思う所が、ハイネル伯の優秀さを物語っていた。




