その19
さて、漆黒の闇が漂う艦隊の方である。
「敵艦隊、総数23。
12時の方向から接近中。
我が艦隊の陣形は、整っております」
シャルスが、続けざまに報告してきた。
ハイネル艦隊は、小細工なしに正面から挑んでくるようだ。
数的有利をそのまま活かす戦術なのだろう。
これに対して、エリオ艦隊は……。
どうするのだろうか?
艦隊陣形を指示した以外、もう大分命令がない。
でも、まあ、細かい時はそんな細部にわたるまでと思う程の命令が矢継ぎ早に飛んでくる。
なので、艦隊全体としては、一番近くに発せられた命令をずうっと遂行する事となる。
叱咤激励ってなあに?という感じで、余計な命令は全く出されない。
その為、不気味な程艦隊は静かである。
それが、敵にして見れば、奇異に映るだけではなく、戦闘マシーンに見える。
それ故に、エリオは不名誉にも戦闘狂とも言われる所以でもある。
「練度はハイゼル侯が指揮していた時のを保っていると思われますね」
マイルスターは、視認したハイネル艦隊を見ながらそう言った。
艦隊運動は、実に統一出来ており、帝国艦隊らしいといった印象を受けていた。
「……」
エリオは、それに対して何も応えなかった。
当然のように、不機嫌そうな顔をしていた。
「艦隊の陣形は、このままでよろしいのですか?変更なさいますか?」
マイルスターは、一応確認した。
今更といった感もない事はないが、この距離だと、まだ陣形を組み直す事も可能である。
「いや、それは止めておく」
エリオは、ボソッとそう言った。
艦隊運用に関わる確認だったので、口を開かない訳にはいかなかった。
だが、心情としては、あまり口を開きたくないといった感じだ。
明らかに、これから始まる戦いに対して、嫌なのだなと言う雰囲気が伝わってきた。
こんな指揮官を頭に頂き、戦闘出来るエリオ艦隊は改めて凄いと思う。
「了解しました」
マイルスターは、いつもの和やかな表情でそう言った。
だが、指揮官の言葉が少ないと、総参謀長としては、何か口をはさみたくなるのだろうね。
「このままですと、引き付けて一気に砲撃という事になりますが、それでよろしいのでしょうか?」
マイルスターは、更に確認した。
でも、まあ、これは確認する必要性は結構低いかも知れない。
この陣形を取った時に、そういう戦いになることは明白だからだ。
「初顔合わせですが、ハイネル伯はかなり指揮能力が高いと思われます。
そうなると、激戦も予想されます」
マイルスターは、エリオの答えを待たずに、話を続けた。
先程の確認は、マイルスターもする必要性をあまり感じていなかったのだろう。
そして、今回、エリオが不機嫌なのは、多分、この事だろうという事で、言葉にしてみたのだった。
「戦いは相手がいる以上、こちらの都合通りには行かないさ」
エリオは、やれやれ感満載でそう言った。
マイルスターの言うとおりに、面倒臭そうな戦いになりそうだからだ。
……。
エリオの言葉に対して、マイルスターを始め、シャルスや艦隊の水兵達も唖然としていた。
彼らにとってみれば、エリオは、これまで十分に自分勝手に戦っている様な気がしているからだ。
相手のことなどは全く考えていないように……。
「ならば、我々としては、一番良い策を採り続ける他ないだろう」
エリオは、おかしな雰囲気になっているのをものともせずに、そう言い切った。
いや、その空気感をよく分かっていないから続けて、こう言う事を言ったのだろう。
結構まともな事を言っているのに、素直にそう思ってくれないのは、こう言う所に原因があるのだろう。
だが、逆にマイルスターを始め、各面々がそういうエリオを見て、安心するのである。
そうやって、修羅場を潜り抜けてきているのだから……。
こういった上から下まで、変な面々で構成されているのがエリオ艦隊である。
そして、新たに加わった10隻の新造艦達は、この空気に付いて行けるのであろうか?
そういった戦いでもあったのだった。




