その12
「何か、新たな情報でも入ったのですか?」
大公が即答しなかったので、公爵は不安に駆られた。
こうやって不安になる公爵は、公式の場ではほぼ見られないのである。
「いや、ないな」
大公は、今度は即答した。
「ならば、何故でしょうか?」
公爵は安心すると共に、怪訝に思わざるを得なかった。
「何故?あの戦闘狂である『漆黒の闇』の動きを封じる為である」
大公は、公爵とは真逆に何故それが分からないかという表情をした。
あっ、いや、表情の変化はほとんどない。
でも、まあ、付き合いの長い公爵には分かるというややこしい状況である。
「つまり、クライセン公に対する嫌がらせですか……」
公爵は、身も蓋もない言葉を言わざるを得なかった。
勿論、それと同時に呆れていた。
「その通りだ」
大公は、公爵の身も蓋もない言葉を肯定した。
「……」
肯定された公爵は、呆れて黙る他なかった。
「考えてみてくれ。
あやつに自由を与えると碌な事がないのは明白だ」
大公は、珍しく苦々しい表情に変わった。
サキュス強襲をやられた事を思い出しているのだろう。
「まあ、分かりますが、動きがない中で、こちらから手を出す必要がありますかね?」
公爵は、もう苦笑いする他なかった。
「あやつが動いていないのは、次の準備をしているに過ぎない」
大公は、まだ苦々しい表情でそう言った。
「次の準備とは?」
公爵は、やれやれと思っていた所から一転した。
これまでは大公の取り越し苦労と思っていたが、そうではない雰囲気を感じ取ったからだった。
「東方貿易の独占だろう」
大公は相変わらず苦々しい表情だったが、ズバッと断言した。
「……」
公爵は、はっきり言うと、反応に困った。
公爵は、生粋の軍人である。
なので、そっち方面は明るいとは言い難かった。
とは言え、軍人である。
東方貿易に対する権益を侵略されるとなると、本能的にそれを阻止しなくてはならないと考えるのであった。
だが、どうやって?
そう言う事もあって、公爵は腕組みをしながら考え込んでしまった。
「バリア島の占拠ですか?」
公爵は、考え込んだ末の結論を口にした。
バリア島は、帝国の海外領土とも言える島だった。
この島は、西大陸と東大陸のほぼ中間点に位置しており、貿易中継点として機能していた。
「まあ、最終目標はそうなるだろうな」
大公は含みをある言い方だが、公爵に同意した。
「成る程、それまでに色々と布石を打ってくるという訳ですか……」
公爵はようやく大公の意図が分かり、納得した。
だが、同時に新たな問題点に気が付いた。
「しかし、殿下、今回の出兵で、クライセン公を止められるでしょうか?」
公爵は、思い付いたまま尋ねた。
「ふん、貴公は本質を突いたな……」
大公は、いつもの冷徹な態度に切り替わった。
大公は大公で、既にその問題点に気が付いていたようだった。
なので、予想される結果は口にしなかった。
公爵も公爵で、恐らく同じ予想をしている事を口にはしなかった。
「でも、まあ、こちらも打てる手は打っておかないとですな」
公爵は、気を引き締めながらそう言った。
この先の事を思うと、かなりの困難が予想されるからだ。
「こちらとしては、まずは相手に主導権を渡さないようにしなくてはならない」
大公は、自分に言い聞かせる用のそう言った。
公爵は、それに無言で頷くのだった。




