その11
「戦力化というならば、海賊討伐を行えば、いいではないですか。
実際、既に行っていますよね」
公爵は大公の期待通りに、言葉を続けた。
「ああ、周辺海域の治安維持部隊としては、現在の北方艦隊は戦力になることは証明した。
そして、指揮官であるハイネル伯もその能力に疑いはないだろう」
大公は、公爵の言葉に同調した。
だが、公爵は、それを額面通り受け取らなかった。
どう聞いても、含みのある言い方だったからだ。
従兄弟同士なので、その辺のことはよく分かる。
しかしながら、大公が本当は何を考えているかが、公爵には分からなかった。
これはいつもの事である。
「疑いがないと仰っていますが、どう見ても最後の仕上げが足りないと感じているのではないですか?」
公爵は、更に追求する事にした。
「仕上げという風には考えてはいなかった。
とは言え、今回、当たる予定の相手は、確かに海賊の親玉だな」
大公は、公爵の海賊発言が気に入ったようだった。
変な言い方だが、少なくとも公爵にはそう感じた。
なので、これは冗談を交えた切り返しである。
傍から見ると、表情が全く変わっていないので、他人には分からないだろう。
「親玉って、殿下……」
公爵は、思わぬ大公の反応に呆れた、
だが、呆れているばかりではいられなかった。
なので、気を取り直した。
「確かにクライセン公は海賊の末裔ですが、だからと言って、仕上げとして当てる敵には強大すぎやしませんか?」
公爵は、ようやく聞きたい事を聞いた。
ここまでとても長かったような気がしていた。
ならば、率直にこう聞くべきだが、大公の真意を確かめる為には、こうやって遠回りした方がいい事はよく知っていた。
本当に、大人は無駄な事ばかりする。
でも、まあ、軍議でこういった質問をすると、ハイネル伯の能力を低評価しているという噂が立ちかねない。
そういった意味でも、こう言った遠回りが必要なのであった。
今回は、軍議ではないのだが、まあ、大人は色々と気を遣うのである。
「ハイネル伯にしても、いきなり大事な場面で当たるよりはマシだろう」
大公は、あっさりとそう言ってのけた。
「うっ……」
これには、公爵はまた絶句する他なかった。
豪快な性格で知られる公爵を何度も絶句させるのは、この世で、そうはいない。
だが、正論を躊躇なく言われるとねぇ……。
と同時に、公爵には、大公なりの配慮が伺えた。
となると、やはり、言葉に詰まってしまうのだろう。
それに対して、大公は、びっくりする程自然体である。
大公にしてみれば、特別な事を口にしていないという感じなのだろう。
まあ、確かに特別な言葉ではないのだが……。
公爵は、自然体にしている大公を見ているに付け、何とか気を取り直した。
「しかし、この時期にですか?
マグロット奪還し、バルディオンにも援軍を送らないとなりません。
スヴィアだって、このままという訳には行かないでしょう。
優先順位としては、低いと思いますが」
公爵は、軍の総司令官らしくそう言った。
今は、多正面作戦を強いられそうな状況である。
総司令官としては、これ以上に新たに戦線を構築するのは好ましくないと思っているのだった。
「ラロスゼンロに対しての援軍は遅らせる。
スヴィアに関しては、補給艦隊を叩いたお陰で、そう易々と出てこれらないだろう」
大公は、またもやあっさりと答えた。
という事は、やはり、その辺の事を考えての事だったのだ。
それを確認した公爵は、呆れていたのは言うまでもなかった。
まあ、その辺の説明は完全に省かれていたのだから、尚更だった。
「しかし、リーラン、特に、クライセン公に動きがない以上、手を出す必要はないのでは?」
公爵は、大公の優先順位に、明らかに疑問を持っていた。
大公の方は、公爵のこの疑問に対して、明らかにこれまでと違った態度になった。
冷徹な瞳に見詰められた公爵は、薄ら寒さを覚えたのだった。
それは、今までのように即答しなかった分、そう感じられたようだ。




