その10
今回先に手を出して、嵐を呼び起こそうとしている帝国である。
軍議が終わった後、フレックスシス大公は自分の執務室へと戻ってきていた。
部屋の前まで来ると、扉の前の番兵達が扉を開けた。
そして、横に避けて、頭を下げた。
「ちょっと、ここで待っててくれ」
大公は、引き連れてきた補佐官達にそう声を掛けた。
そうしてから、自室に入ると、当たり前のように、音もなく付いてきたマイラック公爵がその後に続いた。
補佐官達は、いつの間にかいたマイラック公爵に驚きながら、その場に立ち止まりながらその姿を見送った。
2人が中に入ると、扉が閉じられた。
大公は、気にする様子もなく、自分の席に腰掛けた。
公爵はその後をゆっくり追いながら、大公の執務机を挟んで、対決するかのように立ち止まった。
「殿下は、意外に気が利きますな」
公爵は対決するかのように立ち止まったのに、まずは軽口から入った。
それは公爵の豪快な性格を表すものであった。
「人がいたら話しにくい事を言いに来たのだろう」
大公は、公爵の軽口に対して素っ気なくそう答えた。
それは別に対抗しようとするものではなく、どこか事務的であった。
この言い方も、大公の性格を表すものであった。
大公の性格は、よく冷徹と言われているが、話が進むように配慮している点では、徹底した冷徹な性格なのかも知れない。
「……」
公爵の方は、大公のぶっちゃけ振りに唖然としてしまった。
豪快な公爵をここまで騙させる、いや、呆れさせるのは大公以外いないだろう。
だが、もっと凄い、いや、酷い事に、大公は絶句している公爵を全く意に介していなかった。
それどころか、何も喋らない公爵に対して、机にあった資料を開き始めてしまったのだった。
要するに、溜まっている仕事を片付け始めたのだった。
只でさえ忙しいのである。
互いに沈黙しているのなら、仕事をしてしまおうという魂胆である。
ある人物と比べると、立派な人物である。
「……」
その姿を見て、公爵は絶句したまま、流石だと感じるのであった。
「いやいや!」
公爵は自分が何をしに来たのか、思い出したように、首を大きく横に振って、自分を取り戻した。
大公のペースに巻き込まれる訳には行かなかったからだ。
「殿下、私が言いたい事ぐらい、察していらっしゃるでしょ?」
公爵は自分のペースに少しでも引き込もうとして、質問から入り直した。
「北方艦隊の事だろ?」
大公は、書類を見ながらそう答えた。
「その通りですよ」
公爵は直ぐに答えてくれたので、話が進むと思った。
「貴公は、何故軍議の場で、それを聞かなかったのだ?」
大公は手を止めて、公爵に逆に質問してきた。
「……」
公爵は、自分のペースに引き込めたと思った途端の反撃に面食らってしまった。
どうにも、こうにも、大公の方が一枚も二枚も上手だと思わざるを得なかった。
「貴公こそ、色々と気を遣ったのだろうよ」
大公は、面食らっている公爵に追い打ちを掛けるようにそう言った。
先程の軽口の意趣返しだろうか?
とは言え、公爵の方は、これで諦めが付いた。
もう、大公のペースでいいやと。
「今回、殿下は北方艦隊の演習の目的は、北方艦隊の戦力化と位置づけていますが、狙いはそこではないでしょう」
公爵は、遠慮を取り払うようにそう言った。
今までのやり取りは何だったのだろうか?
まあ、大人というものは、時にして無駄な事をしてしまうのが常である。
「……」
大公は、遠慮がなくなった公爵をジッと見た。
そして、次の言葉を待ったのだった。




