第9話 「文化祭開幕!」
文化祭当日。
朝七時。
まだ一般客も来ていない校舎の中は、いつもと違う熱気に包まれていた。
「急げ急げー!」
「コーヒー豆どこ!?」
「レジ担当まだ来てない!」
「健太が寝坊した!」
「またかよ!」
二年A組は朝から大騒ぎだった。
悠斗はエプロン姿でテーブルを並べていた。
「終わらねぇ……」
「お疲れ」
結奈が紙コップを差し出す。
「ありがとう」
「緊張してる?」
「少しな」
「珍しい」
「そりゃ文化祭だから」
結奈は少し微笑んだ。
今日の彼女はカフェ用の制服姿だった。
白いブラウス。
黒いエプロン。
落ち着いた雰囲気がいつも以上に大人っぽく見える。
「似合ってるな」
何気なく言った。
結奈は一瞬固まる。
「……え?」
「その制服」
「あ」
数秒後。
「ありがとう」
耳まで赤くなっていた。
「どうした?」
「なんでもない」
全然なんでもなさそうではなかった。
そこへ。
「おはよー!!」
元気な声が響く。
白石美雪だった。
教室中の空気が一気に明るくなる。
「美雪ちゃん来た!」
「救世主!」
「本物だ!」
「本物って何!?」
美雪は笑いながらツッコんだ。
今日の美雪もカフェ制服姿だった。
慣れた仕草。
自然な笑顔。
クラスメイトたちは思わず見とれていた。
「やっぱ可愛いな」
「反則だろ」
「看板娘だ……」
「聞こえてるからね!?」
教室は爆笑だった。
午前九時。
文化祭開幕。
校内放送が流れる。
『ただいまより青葉学園文化祭を開始します!』
大歓声。
そして。
二年A組の『青葉カフェ』にも次々と客がやって来た。
「いらっしゃいませ!」
美雪の明るい接客。
「こちらへどうぞ」
結奈の丁寧な案内。
二人とも大活躍だった。
開始一時間。
すでに満席。
二時間。
店の外に行列。
三時間。
健太が叫んだ。
「売上やばいぞ!」
「マジか!」
「過去最高ペース!」
教室が盛り上がる。
そんな中。
悠斗は厨房担当として働いていた。
「注文追加!」
「コーヒー三つ!」
「ケーキ二つ!」
「忙しい!」
完全に戦場だった。
昼休憩。
ようやく少し落ち着く。
「疲れたぁ……」
悠斗は椅子へ座り込む。
その時。
「お疲れ」
結奈が冷たいお茶を差し出した。
「助かる」
「頑張ってるね」
「そっちも」
結奈は少し照れたように笑う。
その瞬間。
「はい!」
別方向からジュースが差し出される。
美雪だった。
「こっちもどうぞ!」
「え?」
右に結奈。
左に美雪。
二人とも飲み物を持っている。
悠斗は固まった。
「どっち飲むの?」
美雪。
「好きな方でいいよ」
結奈。
笑顔。
なのに怖い。
「えっと……」
人生最大級に困った。
「両方飲む」
沈黙。
数秒後。
二人とも吹き出した。
「それずるい」
「悠斗くんらしい」
なんとか危機は回避された。
だが。
周囲のクラスメイトたちはニヤニヤしていた。
「修羅場だ」
「青春だな」
「羨ましい」
「黙れ」
午後。
文化祭はさらに盛り上がる。
来客数はどんどん増えていく。
そして。
事件は突然起きた。
カラン。
入口のドアが開く。
「いらっしゃいませ!」
美雪が振り向く。
その瞬間。
表情が変わった。
「……え?」
悠斗も気付く。
入口に立っていたのは。
若い女性だった。
長い黒髪。
上品な雰囲気。
そして。
なぜか真っ直ぐ悠斗を見ている。
「やっと見つけた」
その言葉に。
悠斗は聞き覚えのないはずなのに、胸がざわついた。
女性はゆっくり微笑む。
そして。
「久しぶりね」
そう言った。
だが。
悠斗には全く心当たりがなかった。
「……誰?」
文化祭の賑わいの中。
新たな波乱の予感が静かに幕を開けようとしていた――。




