第10話 「突然現れた謎の女性」
「久しぶりね」
文化祭で賑わう『青葉カフェ』。
その入口で、見知らぬ女性は穏やかに微笑んでいた。
しかし。
悠斗の記憶には全くない。
「……誰ですか?」
思わず聞き返す。
すると女性は少し驚いたような顔をした。
「あら」
「?」
「覚えてないのね」
その言葉。
最近どこかで聞いた気がする。
結奈だ。
十年前の約束。
覚えていない過去。
また同じような話なのか。
女性は小さく笑った。
「まあ仕方ないか」
「えっと……」
「ごめんなさい。先に名乗るべきだったわね」
女性は軽く頭を下げる。
「私は朝霧玲奈」
「朝霧さん」
「結奈ちゃんの姉よ」
「……え?」
悠斗は固まった。
後ろで見ていた美雪も目を丸くする。
「お姉さん!?」
その瞬間。
店の奥から結奈が飛び出してきた。
「お姉ちゃん!?」
やはり知り合いだった。
玲奈は優しく微笑む。
「久しぶり、結奈」
「なんで来たの!?」
「文化祭だから」
「聞いてない!」
「サプライズ」
結奈は頭を抱えた。
「やめて……」
美雪が小声で悠斗に言う。
「似てるね」
「確かに」
顔立ちはかなり似ていた。
ただ。
玲奈の方が大人びている。
そしてどこか余裕があった。
「なるほど」
玲奈は悠斗を見る。
「君が悠斗くんね」
「はい」
「結奈からたくさん聞いてるわ」
「お姉ちゃん!!」
結奈が真っ赤になる。
教室のメンバーは一斉に反応した。
「たくさん!?」
「詳しく聞こう!」
「青春案件だ!」
「やめてぇぇ!」
結奈は完全にパニックだった。
美雪も少し気になる様子だった。
「何聞いてるんですか?」
玲奈はニヤッと笑う。
「秘密」
「気になる!」
「言わない」
文化祭の忙しさを忘れるほど、その場は盛り上がった。
しかし。
数時間後。
文化祭一日目終了。
校内放送が流れる。
『本日の一般公開は終了します』
大きな拍手。
二年A組の生徒たちは達成感に包まれていた。
「終わったぁぁ!」
「売上すごかったな!」
「明日も頑張ろう!」
みんな笑顔だった。
そんな中。
悠斗は教室の外へ出た。
少しだけ涼しい風に当たりたかった。
夕暮れ。
校舎の窓がオレンジ色に染まっている。
「お疲れ」
後ろから声。
振り返る。
結奈だった。
「お疲れ」
二人は並んで歩く。
少しだけ静かな時間。
文化祭中の慌ただしさが嘘みたいだった。
「お姉ちゃんがごめん」
「いや」
「びっくりしたでしょ」
「かなり」
「勝手に来るから」
悠斗は笑った。
「でも面白い人だな」
「昔からあんな感じ」
結奈も少し笑う。
その後。
しばらく沈黙が続いた。
そして。
結奈が立ち止まる。
「ねぇ」
「ん?」
夕陽が差し込む。
結奈の表情は真剣だった。
「前に言ったよね」
「文化祭が終わったら伝えたいことがあるって」
悠斗の心臓が跳ねる。
覚えている。
文化祭前夜。
公園で聞いた言葉だ。
「うん」
結奈は小さく頷く。
「明日」
風が吹く。
「文化祭が終わったら話したい」
真っ直ぐな瞳。
逃げない。
迷わない。
そんな決意が見えた。
「分かった」
悠斗は静かに答えた。
結奈は少し安心したように笑う。
「ありがとう」
その笑顔はどこか切なかった。
一方その頃。
教室の窓から。
美雪は二人の姿を見ていた。
楽しそうに話している。
夕焼けの中で並んでいる。
胸が少し痛くなる。
「明日か……」
美雪は小さく呟いた。
もう気付いていた。
結奈が伝えようとしていることを。
そして。
自分もまた。
伝えなければならないことがあることを。
文化祭最終日。
三人の恋は、大きく動き出そうとしていた――。




