第6話 「看板娘争奪戦!?」
文化祭まで残り三週間。
二年A組はかつてないほど活気に満ちていた。
昼休み。
教室のあちこちで文化祭の話題が飛び交う。
「看板完成したぞー!」
「メニュー案できた!」
「試作品のクッキー食べる人ー!」
「俺!」
「俺も!」
まるでお祭り状態だった。
そんな中。
文化祭実行委員の悠斗は資料をまとめながらため息をつく。
「忙しい……」
「お疲れさま」
隣に座る結奈がスポーツドリンクを差し出した。
「ありがと」
「無理しないでね」
「結奈もな」
「私は平気」
「実行委員の仕事かなりやってるだろ」
「好きだから」
「すごいな」
結奈は少しだけ照れたように笑った。
その時。
教室の後ろから大きな声が響く。
「なあ!」
健太だった。
嫌な予感しかしない。
「文化祭カフェの看板娘って誰になるんだ?」
教室が静かになる。
そして。
全員の視線が二人へ向いた。
「白石さん!」
「月城さん!」
「どっちも可愛いし!」
「確かに!」
「二人体制でよくね?」
「いや勝負しよう!」
「何の勝負だよ!」
悠斗がツッコむ。
しかし誰も聞いていなかった。
「人気投票!」
「接客対決!」
「料理対決!」
「それ面白そう!」
「ちょっと待って!」
美雪が慌てる。
今日は打ち合わせのために来ていた。
「なんでそんな話になるの!?」
「盛り上がるから!」
「理由が雑!」
結奈は困ったように苦笑する。
「私は別に……」
すると健太が言った。
「負けるの怖い?」
「え?」
「月城さんなら余裕だと思ったけどなぁ」
教室がざわつく。
結奈の眉が少しだけ動いた。
「怖くない」
「じゃあやる?」
「……」
結奈は静かに美雪を見る。
美雪も負けず嫌いだった。
「受けて立つよ!」
「おおおお!」
教室が盛り上がる。
「お前ら本当に暇だな」
悠斗は呆れた。
放課後。
MIYUKI'sカフェ。
即席の勝負会場が作られていた。
「なんでこうなった……」
悠斗は頭を抱える。
第一種目。
接客対決。
「いらっしゃいませ♪」
美雪の笑顔。
慣れた動き。
自然な接客。
店内のお客さんまで拍手していた。
「プロだ」
「さすが看板娘」
「強い」
クラスメイトたちも感心する。
続いて結奈。
少し緊張している様子だった。
しかし。
「いらっしゃいませ」
落ち着いた笑顔。
丁寧な言葉遣い。
大人っぽい雰囲気。
「これはこれで良い……」
「癒される」
「月城さん強い」
結果。
引き分け。
第二種目。
料理対決。
美雪は慣れた手つきでパンケーキを作る。
綺麗な焼き色。
美しい盛り付け。
「すごい」
「店レベルだ」
当然である。
本職だ。
結奈も負けていなかった。
「器用だな」
悠斗が驚く。
「料理好きだから」
「初耳だ」
「言ってないし」
完成したスイーツはどちらも高評価。
またしても引き分け。
第三種目。
クラスメイトたちが勝手に決めた。
「悠斗と仲良し対決!」
「待て」
悠斗が即座に止める。
「意味が分からん」
「大事だろ!」
「全然大事じゃない!」
しかし教室メンバーは盛り上がっていた。
「質問します!」
健太が司会を始める。
「桜井悠斗の好きな食べ物は!」
美雪が即答。
「カレー!」
結奈も同時だった。
「カレー」
「正解!」
「なんで知ってるんだよ」
「いつも頼むから」
美雪が言う。
「前に聞いた」
結奈も言う。
次々と質問が飛ぶ。
好きな飲み物。
苦手な教科。
好きなゲーム。
驚くことに。
二人ともほぼ正解した。
「怖い」
悠斗は真顔だった。
「なんでそんなに知ってる」
「気になるから」
美雪。
「知りたいから」
結奈。
教室は大歓声。
結局。
勝負は決着がつかなかった。
帰り道。
文化祭準備も終わり。
夕焼けの下。
悠斗は一人で歩いていた。
すると。
後ろから声がする。
「待って」
結奈だった。
「どうした?」
「少し話したい」
「うん」
結奈は少しだけ歩く速度を落とす。
そして。
「今日ね」
「うん」
「負けたくなかった」
「文化祭の勝負?」
「それもある」
少しだけ沈黙。
「でも一番は」
結奈が立ち止まる。
夕焼けが黒髪を赤く染めていた。
「美雪ちゃんに」
「……」
「悠斗くんのことで」
悠斗の心臓が大きく跳ねた。
結奈は自分の気持ちに気付き始めていた。
そして。
その想いはもう隠せないほど大きくなっていた。
一方その頃。
美雪もまた自室で考えていた。
「結奈ちゃん……本気なんだ」
文化祭が近付くにつれ。
二人のヒロインの恋心は確実に加速していた。
そして悠斗はまだ知らない。
この恋が、自分の高校生活を大きく変えていくことを――。




