第5話 「文化祭準備スタート!」
月曜日。
休日が終わり、青葉学園にはいつもの朝が戻ってきた。
だが二年A組の教室だけは少し違う。
文化祭の話題で持ち切りだった。
「なあ、出し物何にするんだ?」
「お化け屋敷!」
「去年もやっただろ!」
「じゃあ演劇!」
「配役で揉める未来しか見えない」
教室中から様々な意見が飛び交う。
そんな中。
文化祭実行委員の悠斗と結奈は、黒板の前に立っていた。
「まとめるの大変そうだな」
悠斗が小声で言う。
「うん」
結奈も苦笑する。
「でも楽しそう」
「俺には戦場に見える」
「ふふっ」
ホームルーム。
佐々木先生が教室へ入ってくる。
「よし。今日は出し物を決めるぞ」
その一言で教室がざわつく。
「候補を書いていけ」
先生が黒板を指差した。
すると次々と案が出る。
お化け屋敷。
演劇。
脱出ゲーム。
縁日。
映画上映。
喫茶店。
メイドカフェ。
執事カフェ。
コスプレカフェ。
「カフェ多くない?」
悠斗が呟く。
「多いね」
結奈も同意した。
すると女子の一人が立ち上がった。
「ねえ!」
みんなが振り向く。
「せっかくなら本格的なカフェやらない?」
「本格的?」
「うん!」
女子はニヤリと笑う。
「だってうちのクラスには桜井くんがいるじゃん」
「俺?」
「MIYUKI'sカフェの常連!」
「なんで知ってるんだよ」
教室が笑いに包まれる。
さらに別の女子が言う。
「美雪ちゃんのカフェって人気だよね?」
「らしいな」
「協力してもらえたらすごくない?」
「確かに!」
「絶対行列できる!」
教室の空気が一気に変わった。
「ちょっと待て!」
悠斗が慌てる。
「勝手に話進めるな!」
「いいじゃん!」
「桜井頼む!」
「お前なら頼めるだろ!」
「いや無理だって!」
結奈が小さく笑う。
「有名人だね」
「全然嬉しくない」
「私は少し面白い」
「他人事だと思ってるだろ」
「少しだけ」
投票の結果。
二年A組の出し物は――
『青葉カフェ』
に決定した。
教室は拍手で盛り上がる。
悠斗だけが頭を抱えていた。
放課後。
「というわけで」
「どういうわけだ」
「MIYUKI'sカフェへ行こう」
結奈が言った。
「行かないと始まらない」
「まあそうだけど」
二人はいつもの道を歩く。
夕方の風が心地いい。
最近は並んで歩くことも増えた。
最初の頃のぎこちなさはほとんどない。
「そういえば」
結奈が口を開く。
「昨日楽しかった」
「買い物か?」
「うん」
「俺は荷物持ちだったけどな」
「優しかった」
「普通だろ」
「そういうところ」
「?」
「なんでもない」
結奈は少し笑った。
カラン。
MIYUKI'sカフェの扉を開く。
「いらっしゃい――」
美雪が顔を上げる。
そして。
「おお?」
楽しそうな笑顔になる。
「また一緒なんだ」
「偶然だ」
「本当に?」
「本当だ」
「怪しい」
結奈が席に座る。
美雪も向かいに腰掛けた。
「今日はどうしたの?」
「相談」
「相談?」
悠斗が文化祭の話を説明する。
数分後。
美雪は目を丸くしていた。
「文化祭でカフェ!?」
「そうらしい」
「面白そう!」
「まだ協力してくれるとは言ってないぞ」
「する!」
即答だった。
「早いな」
「だって楽しそうだもん!」
「店長は?」
「聞いてくる!」
美雪は店の奥へ走る。
数分後。
勢いよく戻ってきた。
「OK!」
「早っ!」
「お父さんも面白そうだって!」
こうして。
MIYUKI'sカフェ全面協力のもと。
二年A組の文化祭準備が始まった。
その後。
クラスのグループチャットでは大騒ぎだった。
『マジで協力してくれるの!?』
『やったあああ!』
『絶対成功させよう!』
『美雪ちゃん来る!?』
『そこ重要』
『おい』
翌日。
教室。
文化祭準備会議が始まる。
すると。
「メニュー考えよう!」
「制服どうする!?」
「看板作ろう!」
みんな異様にやる気だった。
そして。
誰かが言った。
「看板娘必要じゃね?」
教室が静かになる。
次の瞬間。
全員が同じ方向を見る。
「?」
美雪だった。
今日は打ち合わせのために学校へ来ていた。
「え?」
「看板娘だ!」
「決定!」
「異議なし!」
「待って待って!」
美雪が慌てる。
「私生徒じゃないよ!?」
「関係ない!」
「あるよ!?」
「お願い!」
「絶対盛り上がる!」
美雪は助けを求めるように悠斗を見る。
「悠斗くん!」
「頑張れ」
「裏切った!」
教室が爆笑した。
そんな賑やかな時間。
しかし。
結奈は少し離れた場所からその光景を見ていた。
美雪と悠斗。
自然な距離感。
長い時間をかけて築かれた関係。
それは自分にはまだないものだった。
「負けないけど」
誰にも聞こえない声。
小さな決意。
そしてその表情には、確かな恋心が宿っていた。
一方。
美雪もまた。
結奈を見る。
最近気付いている。
彼女も悠斗を特別に思っていることを。
文化祭。
それはクラスだけでなく。
三人の恋も大きく動き出す舞台になろうとしていた――。




