第4話 「初めての休日と二人きりの買い出し」
日曜日。
午前九時。
青空が広がる気持ちのいい朝だった。
桜井悠斗は駅前の時計台の前に立っていた。
休日なのに少し早起きしたせいで眠い。
大きなあくびをしながらスマホを確認する。
待ち合わせ時間は九時。
現在八時五十五分。
「早く来すぎたな……」
そう呟いた直後だった。
「お待たせー!」
元気な声が響く。
振り向くと、美雪が小走りでやってきた。
白いブラウス。
淡い水色のスカート。
学校では見ない私服姿だった。
「ごめん!待った?」
「いや」
悠斗は思わず視線を逸らした。
「どうしたの?」
「別に」
「変なの」
美雪は首を傾げる。
だがすぐに気付いた。
「あっ」
「?」
「もしかして私服かわいいと思った?」
「思ってない」
「嘘だ」
「嘘じゃない」
「顔赤いよ?」
「朝だからだ」
「朝は関係ないと思うなぁ」
楽しそうに笑う美雪。
悠斗は小さくため息をついた。
二人は商店街へ向かう。
今日の目的はカフェで使う材料の買い出しだ。
本来なら店長も来る予定だったらしい。
しかし急な用事が入り、美雪と悠斗だけになった。
「なんかデートみたいだね」
「違う」
「即答」
「買い出しだから」
「でも二人きりだよ?」
「そうだな」
「否定しないんだ」
「否定するのも面倒」
「ふふっ」
商店街は休日らしく賑わっていた。
家族連れ。
カップル。
学生グループ。
様々な人が行き交う。
「まずは果物屋さん!」
美雪が先頭を歩く。
「次にスーパー!」
「はいはい」
「最後に雑貨屋さん!」
「店員みたいだな」
「看板娘ですから」
胸を張る美雪。
少しだけ得意げだった。
果物屋。
「いらっしゃい!」
店主のおじさんが声を掛ける。
「美雪ちゃんじゃないか!」
「こんにちはー!」
「今日は彼氏連れか?」
「ち、違います!」
美雪が慌てる。
悠斗も苦笑した。
「友達です」
「またまたー」
「本当に違うんです!」
店を出た後。
美雪は真っ赤になっていた。
「もう!」
「有名なんだな」
「昔からお世話になってるから」
「なるほど」
「でも彼氏は違うよね」
「違うな」
「……そうだよね」
なぜか少しだけ寂しそうだった。
スーパーでの買い物も順調だった。
しかし。
事件は突然起きる。
「美雪ちゃん?」
聞き覚えのある声。
二人が振り向く。
そこに立っていたのは――
月城結奈だった。
「結奈!?」
「偶然」
結奈は買い物かごを持っていた。
私服姿だった。
白いワンピース。
落ち着いた雰囲気。
学校とはまた違う印象だった。
「買い物?」
「うん」
「結奈も?」
「そう」
数秒の沈黙。
なぜだろう。
妙な空気が流れる。
最初に口を開いたのは美雪だった。
「結奈ちゃん可愛い!」
「ありがとう」
「私服似合ってる!」
「美雪ちゃんも」
「本当?」
「うん」
「やった!」
女子同士は意気投合していた。
一方。
悠斗は複雑だった。
「なんでこんな偶然あるんだ」
「運命かも」
結奈がさらっと言う。
「軽く言うな」
「違う?」
「知らん」
結局。
買い物は三人ですることになった。
雑貨屋では。
「このマグカップ可愛い!」
「確かに」
「カフェで使いたいなぁ」
「予算は?」
「ない!」
「だろうな」
結奈も別の商品を見る。
「これもいいかも」
「シンプルだな」
「好きだから」
「結奈らしい」
「そう?」
少し嬉しそうだった。
そんな何気ない時間。
だけど三人とも楽しかった。
帰り道。
荷物を持ちながら歩く。
夕方の風が心地いい。
「今日は助かった!」
美雪が笑う。
「悠斗くんありがとう!」
「別に」
「結奈ちゃんも!」
「楽しかった」
カフェの前に着く。
そこで結奈は立ち止まった。
「じゃあ私は帰るね」
「送るか?」
悠斗が何気なく言う。
すると。
結奈は少し驚いた顔をした。
「送ってくれるの?」
「途中までなら」
「嬉しい」
その瞬間。
美雪の表情が少しだけ固まった。
本当に一瞬だった。
誰も気付かないくらい。
でも。
確かに。
「いってらっしゃい」
美雪は笑顔で言った。
「おう」
「また明日」
「うん」
二人が歩いていく姿を見送りながら。
美雪は小さく呟く。
「……ずるいな」
自分でも分からない。
なぜこんな気持ちになるのか。
その夜。
部屋に戻った美雪はベッドへ倒れ込んだ。
そして顔を枕に埋める。
「はぁぁぁ……」
思い出すのは今日の出来事。
悠斗の笑顔。
結奈との会話。
そして。
『送るか?』
という言葉。
「私……」
そこまで言って止まる。
言葉にしたら認めることになる。
でも。
もう気付いていた。
白石美雪は。
桜井悠斗に恋をしていた。
一方その頃。
帰り道。
結奈は悠斗の隣を歩きながら微笑んでいた。
「ねぇ」
「ん?」
「また今度、二人で出掛けたい」
「え?」
「ダメ?」
「いや……」
突然すぎる。
悠斗は返事に困った。
結奈は少しだけ笑う。
「返事は今じゃなくていいよ」
「そうか」
「うん」
しかし。
その言葉は確かに。
二人の距離をまた一歩近付けるものだった。




