§6 特典あり
新木は穏やかな笑みを浮かべた。
「じゃあ、ついでに君たちの一番の心配事を解消する情報を与えよう」
「何ですか?」とルイ。
「君たちが無事に一年間の勤務を完遂すると、君たちが消えた一瞬後、日本に戻される」
「「えっ?」」
二人は同時に声を上げた。
「だから安心してもらいたい」
「時間を遡れるわけですか。タイムトラベルとか?」とルイ。
アリサは目の闇を濃くした。
「細かく説明はできないけれど、同時存在ができないせいだ。多分、余裕を見て0.05秒後ぐらいかな。エレベーターの中で消えて戻る。監視カメラでも分からない」
「「ええっ」」
「だから周りの人たちには、君たちがいなくなったことは、全然分からないよ」
「そうなんですか、よかった」とルイ。
「でも一歳年をとるわけですね」とアリサ。
「それはそうだ。しかしここは兵士の健康管理が徹底しているから、寿命は一歳以上は絶対に伸びるよ。他にもいろいろ強化されるから、メリットの方が大きいよ」
そう、チューニングしてブーストされる、とこの部分は言わない。
「分子レベルで修復するから病気にも罹りにくくなるし、体力や俊敏性も増進する」
新木はちらりと彼女たちの後ろに浮かんでいる能力数値を見た。多分、2~3倍にはなるはずだ。平凡から非凡、いや超非凡だな。
念のためですが、とルイ。
「協力しないとどうなるんですか?」
「困ったことになる。程度によるけど、勤務期間が延びたりして、君たちにはメリットがないよ。自力では帰れないし、助けも呼べないから」
「なるほどですね」
アリサは肯いた。暗い目をしている。
「他にもデメリットがありそうですね」
「そうだな、上の連中(人差し指を上に向けた)は、役に立たないと判断すれば宇宙空間に放り出して、新しい人間を調達するかもね。そっちの方が簡単だから。君たちだって昆虫採集で羽が折れた蝶は棄てて、きれいなヤツを選ぶみたいにね。あ、君たちは昆虫採集なんてしないか。何しろ最終対象は70億ほどいるからね」
二人の顔色が白くなった。納得したのだろう。
「分かりました。協力します」
ルイとアリサが声を揃えた。
新木は咳払いをした。
「じゃあ、今後、君たちは私の部下だ。これからは私の命令は絶対だ。分かったね」
二人は素直に肯いた。
「では任務の説明を始める」
二人は背筋を伸ばした。
アイドルは意外と礼儀正しい、と新木は思った。
「君たちは二等兵からスタートする。それぞれ、早瀬瑠衣二等兵、寺田惟紗二等兵だ。私のことは大尉殿と呼ぶように」
「二等兵ですか」
アリサが情けなそうな顔をした。ルイは励ますように言った。
「平気だよ。下っ端からだんだん強くなっていくのがゲームの醍醐味さ」
廊下に出て、すぐに次のドアの前で止まった。
新木がドアを示す。
「ここが君たちの部屋だ」
ドアは自動的に開いた。
中は六畳ぐらいで、二段ベッドと机と椅子、ロッカーがそれぞれ二人分、窮屈そうに収められている。
奥にもドアがあった。
新木が開けると、さらに二つドアがあった。
一つはトイレ、もう一つはシャワールームで、どちらも女子大の寮のように清潔で機能的な設備だった。
「訓練期間中なので二人部屋だ。訓練を終えれば各自個室になる」
二人は部屋をぐるりと見回した。悪くはない。
「訓練以外はここが君たちの部屋だ。自由にしていい。さっきの部屋は食堂兼休憩室で自由時間は使っていい」
新木はポケットから銀色のブレスレットを取り出した。
「これを左手の腕に手首にはめて」
二人は警戒の目で新木を見た。
「はめると二度と取れなくて、無理に取ると爆発するんでしょ」とルイ。
「ははは。心配はいらない。これと一緒だ」
新木は自分のブレスレットを見せた。
「スマホだったかな。その替りだ。私に連絡したい時は、これに大尉殿へ、といえば繋がる。他にもいろいろ使える。便利なものだよ」
「Siriみたいなものですか?」とルイ。
「はて」
新木は首をひねった。知らないようだ。
仕方がない。ルイは受け取った。
思ったより軽い。手首にはめようと思ったが、小さくて無理そうだ。どこかにあるはずの切れ目を探していると、アリサはもう手首に付けている。
「手を入れようとしたら、勝手に広がりますよ」
「なるほど」
勝手に広がって、手首まで通すと、勝手に締まる。
軽いし肌に馴染んだので、すぐに装着感もなくなった。
新木はロッカーを示した。
「ここには訓練着や着替えが入っている。明日の訓練時には着替えてくるように」
新木は左手のブレスレットを見ている。
「18:00から夕食だ。時間はない。場所はあの食堂だ」
ルイも自分の手首を見る。
17:45と白抜き数字が浮かび上がっている。
「なるほどスマホだな」
ルイが納得する。
「分からないことがあったら、ブレスレットに聞くように。たいていのことなら教えてくれる。以上、夕食には遅れないように」
新木は出ていった。
ようやくおっさんが退場して、アイドル二人になりますが、二人ともアイドルっぽくないアイドルで申し訳ありません^^




