§7 光の記憶
ルイとアリサは顔を見合わせた。
「ったく、とんでもないことになっちゃったね」
「ええ」
アリサはすぐにドアを開けて外を見ている。
「ちょっと、勝手にいろいろしたらマズいんじゃない」
ルイは臆病なところがある。アリサもそうだと思っていたのだが。
「だって、さっきの部屋で夕食を食べるんでしょ。念のための確認。それに自由時間は使っていいって言ってたし」
それでもアリサは顔を戻した。
「まあ、そうだけどさ、まだよく分かんないし。なんか恐いよ」
ルイは二段ベッドをポンポン叩いた。
「ここに座ろうか」
「はい」
アリサは素直に横に座ったが、首を傾げた。
「どうしたの?」
「いえ、どうも」
ルイはため息をつく。
ややっこしい。
年齢はアリサの方が一歳上の20歳で、ルイは19歳だが、萩坂ではルイは4期生、アリサは5期生なので、ルイが先輩なのだ。
芸能界は人間関係はかなりの体育会系だ。お笑いでもモデルでも、先輩後輩の縦のラインは絶対だ。年齢は関係ない。彼女たち萩坂も例外ではない。
芸歴はルイは五年目に対し、アリサはまだ一年目なのだ。
つまり私が間違いなく先輩だ。
とルイは思うのだが、二人っきりになると、そうもいかない気がする。それにここでは同じ二等兵だ。
そんなことを考えている間に無意識に右手が動く。スマホを求めて。
「あああ、ピムリン、持ってくればよかったなあ」
「どうせ圏外ですよ。海王星軌道なんだから」
「海王星か、セーラームーンにも出てきたっけ。そもそもどこにあるの?」
「水金地火木土天海冥」
「なにそれ?」
「太陽系の惑星の並び順です。海王星は太陽から一番遠い惑星です」
「一番遠いか」
ルイはため息をついた。もっとも近い火星だって同じだ。帰れない。
「アリサって、いろんなことよく知ってるね」
アリサはさっと目をそらした。
やれやれと思う。
人と目を合わせるのがダメなんだ。わたしもダメだけど、とルイは思う。
人見知り同士がバディを組むわけか。やれやれ。
「にしてもこのありえない設定を受け入れている自分が恐いよ」
アリサは小刻みに肯いた。
「わたしもです」
「もしかしたら薬か、何かかな、ドラッグみたいな」
「いや、薬じゃなくて光だと思いますね。あの」
「光?、あれか?」
「です」
目を閉じてもあの強烈な白い光が蘇る。あれで世界は完全に変った。
レッスン場のビルから海王星へ。あ、海王星軌道か。
「光というとあれだね」
「ですね」
二人はあちこち視線を彷徨わせながら話した。
古い映画『メン・イン・ブラック』だとか、そんな話。
根拠はなにもない。なので結論もない。
「考えても無駄だな」
「ですね」
二人はどちらともなく踏ん切りを付けた。
これがエレベーターの光、インプリンティングライト効果だ。
疑問を起こさせない。過度に落ち込ませない。現状を受け入れさせる。
この種の精神的な処置はよく行われる。
地球でも第二次世界大戦には、両陣営共に覚醒剤を兵士に使用したものだ。
今回の光の作用はどれほどのものだろうか。
「考えても仕方ない。こうなったらライブ前だと思って、一年間、死ぬ気でやるか」
「今までと変わりませんね」
「え、そうかな、そうかもね」
彼女たちは早くも気持ちを切り替えていた。
確かにライブ前は十曲以上も新たに振り入れをし、曲に合せてステージを移動する。これは本当に大変なのだ。だけど、やらないといけないので、死ぬ気でやってきた。泣きながら。
二人は、苛酷なライブ前のレッスンと、ライブ本番のステージ、強烈な光と満場の観客の声援とペンライトの渦を思い出した。
この記憶、声援とサイリウムの輝きの残像は、二人を確実に鼓舞した。




