§8 重なり合う空間と相棒を命名する
「夕食の時間だ」
二人は立ち上がって、それぞれのロッカーを開けた。
ロッカーは幅は45㎝ほどで、二個が連結されている。
開けると中は意外に広い。下は三段引出しになっている。
「あれ」
ルイはロッカーから顔を出すと、首を傾げた。
「ですね」
アリサも首を傾げている。
ロッカーは内側がぐんと広がっている。
それはいいのだが、問題は二つのロッカーはつながっていることだ。
ルイとアリサはロッカーを開けたまま、手をお互いの方に伸ばしてみた。
「えっ、これって?」
絶対に30センチは重なりあっているはずなのに、相手側に伸ばした手に当たるべき壁はない。
ふーとアリサはため息を漏らした。
「これも考えても無駄ですね。地球じゃない証拠だと思うしかありません」
「それとも麻薬で幻覚を見せられているか」
「ですね。でも、さっき外を見たら、食堂もここと重なっているみたいでしたよ」
「えっ、そうなの」
うわー、ルイは両手で自分のショードヘアをぐしゃぐしゃにした。
「考えても無駄だね」
「ですね」
ルイはブレスレットに聞いた。
「夕食は、どの服を着たらいいの?」
――一番前に出ているものを。
ロッカーの中でハンガーが回転して、シンプルなオリーブ色の上下が前に出た。
ジャージのようだが、もっと滑らかで伸縮性のある素材だ。
「また、ジャージか。『工事中』と変らないな」
「でもダサくないですよ」
「だね」
二人は着替え始めた。
「おっとジッパーがない。どうするんだろ」
「着るつもりで手に取ると勝手に広がるみたいですよ。着たら勝手に閉じる。ブレスレットと同じ仕組みですね」
「なるほど、これは便利だわ」
サイズはぴったりだった。着やすいし、着脱も楽だ。
「着心地はいいですね。適度に余裕もあるし。持って帰りたいくらいです。でもみんなびっくりしますよね」
「ま、そうだね」
脱いだ服をハンガーに掛けると、自動的に奥の方に行く。
あれ、っと思っていると、ブレスレットから声がする。
――ご安心を。クリーニングしておきます。
「なるほど、至れり尽くせりだ。ウチのも欲しい」
後片付けが苦手なルイはしみじみとそう思った。
突然、ルイはブレスレットに言う。
「君の名前はピムリンだ」
ブレスレットは無言だが、戸惑っている気配が伝わってくる。
ルイは身の回りのものに名前を付ける習慣がある。
自転車は三郎、机にはチョムスキー。そして相棒のスマホはピムリンだった。
ブレスレットはなんとなく慎重な口ぶりで言った。
――私には正式の名称があります。
「どうせ記号か数字だろ。それもわたしに理解できるように翻訳された」
――ええ。その通りです。
「でもさ、わたしの専用機なんだろ。だったらもっとわたし個人とのコミュニケーションを大事にしろよ。ね、だからピムリン。だったらもっと好きになるよ」
しばらく沈黙が続いた。五秒ほど。電子の速度では永遠ともいえるほどの時間だ。
――了解しました。あなたが私をピムリンと呼ぶのを了解いたしました。
「よろしくね、ピムリン」
ルイは笑いかけた。
アリサは自分のブレスレットに言った。
「あなたはトウジよ。いい?」
今度の返事は早かった。すでに覚悟を決めていたのだろう。
「はい、ありがとうございます。私はトウジで大丈夫です」
次回は夕食となかなか一日が終わりません。もう少しペースアップしたいと思っていますが、もたもたしています。どうかお許しを
明日、明後日とお休みします。




