§5 発見して、報告
二人の反応は気もとめず新木は続ける。
「この宇宙には特異点は珍しくはないんだ。まさに恒星の数ほどあるから。ちなみにその数二千億。そのどこからでも敵が侵入してくる可能性がある。でもなにせ二千億だから正規軍だけではとても対応できないんだ。なので辺境は現地人に任せるという方針なんだ」
新木は二人を見た。
「それでわが太陽系はわれわれが選ばれたわけだ」
「選ばれた? 現地人の中から」
「ああ、多分、ランダムでね」
だってオレが選ばれたんだから、という愚痴は呑み込み、新木は続けた。
「選ばれた80億分の1、いや二人だから2か、天文学的に運が悪かったと諦めてくれ」
「私は運がいいと思っていたんだけどな」
ルイはぼやいた。
「私の時は3400倍、この子はもっとすごくて8000倍はあったはず」
「何のオッズ?」
「萩坂のオーディションの倍率です」
「なるほど、君たちのかわいらしさの秘密はよく分かったよ」
「いえ、それほどでも」
ルイは照れた。
「今はただの二等兵だけど」
「はあ、二等兵ですか」
ルイはため息をついた。ついてない。
アリサが顔を上げた。
「それで私たちは何をさせられるんですか?」
「索敵だよ」
「「さくてき?」」
二人は同時に繰り返す。なじみのない言葉だ。
「索敵。敵を探すこと。特異点を見張っていて、敵が出てきたら司令部に報告する。それで任務は一応完了する」
「なるほど。発見して、報告するか」
ルイは大きく肯いた。
「後は銀河帝国の正規軍がやってくるから任せればいいと」
「まあそうだね。所詮、われわれは現地徴用組だからね。無理はできない。それに索敵といっても、人間目で探しても追いつかない。ブラックホールだからね。船のマザーコンピュータがうまくやってくれる」
ルイはほっとした。
「まあ、そうですよね。あたしたちが宇宙人と戦えるわけがないもんね」
横を見るとアリサはぼんやりした顔をしている。
一気にルイは気が楽になった。ライブ前に新しい振り入れがなくなった時みたいだ。
「どうせ敵がやってくる確率も宝くじぐらいですかね」
「宝くじ?」
新木は手首のブレスレットを見た。
「日本の宝くじで、一等が当たる確率は1000万分の1程度か。なるほど。それくらいかな。いやそれよりちょっと高いね。分からないけど。まあ、その程度だよ。でも万が一ってことがあるから、訓練は行う。生きるためだよ。だから自分たちのためだ。厳しいけど覚悟するように」
「いいですよ。訓練、結構です。レッスンだと思えば平気」
「あれ、そうなの。訓練は結構、厳しいよ」
「わたしたちは最初は入った時は、ずっと泣いてましたから」
「女工哀史みたいだね」
「なんですか、それ。昭和ですか」
ルイが笑う。
「いや、どうかな」
新木は困った顔をした。
「どっちにせよ訓練を入れて一年間勤務したら、卒業ですね」
「うん、まあ、卒業というか、除隊だけどね」
「一年か。ヤバいよね」
ルイはアリサを見たが、反応がない。
こんな時にもきっと何か別のことを考えているんだ。困った子だな、ルイはなんとなくおかしくなった。
「アイドルにとって、一年は長すぎるかい?」と新木。
「もちろん。それに海王星に一年いたと言っても誰も信じてくれませんよ」
それは致命的なスキャンダルであることは新木にも想像がついた。
しかしルイは(恐らくアリサも)そこまでリアルには感じていないのだろう。光の刷り込み効果のおかげだ。また実際はなんとかなることを新木は知っている。
「後から説明するけど、そう心配する必要はないんだよ」
新木は穏やかな笑いを浮かべた。
「だから安心して欲しい。任期はきっかり一年。もちろん地球暦。悪魔なら現地時間の海王星暦を採用すればいいんだけど、そんなことはしない」
「えっ、それって何が大変なんですか?」
ルイが聞くと、アリサがぼそぼそと言う。
「公転周期ですよ。惑星が太陽の周りを一周する時間が一年だから、地球よりうんと外側にある海王星は、一周するのにうんと時間が掛かるんですよ」
目がなんとなく光をなくして黒くなっている。ルイはヤバいなと思った。
「そう平均で165年だね」
新木は肯く。
ルイは卒倒しそうになった。
「だからそんなことはしない。安心して欲しい。上の連中はわれわれを故意に騙すようなことはしない。フェアだよ」
「誘拐はしても、ですか?」とアリサ
「彼らは誘拐とは考えていないんだ。例が悪いけど、政府が税金を取るのを強盗とは言わないだろう」
「……ええ、まあ」とルイ。
「みたいな感覚。まあ、政府みたいなもんだからね。だから逆に嘘はつかないんだ」と新木。
「でも全部、正直に言ってくれるわけでもない。政府のように」とアリサ。
「はっは。シニカルだけど、その通りだね。上の連中は出したい情報だけ出す、これは世の常だよ。君たちの世界だってそうだろ」
「まあ、それはそうですね」
アリサは渋々認めた。
早く訓練に入りたいのですが、アイドルたちの条件闘争はもうしばらく続きます。




