第1章 §1 光のエレベーター
白く強烈な光だった。
彼はサングラスをしているので、さほどでもない。
まともに浴びると、目を閉じていても瞼にくっきりと光が残る。
光の去り方もまるで生き物の舌のようだ。ゆっくりと眼球の裏、網膜まで舐め取るようにしてやっと消える。
彼がその光を浴びたのは一年前のことだ。
彼は考える。
一年間か。長かったか、それとも短かったか。
ちょっとぼんやりするが、すぐに頭を振る。
そんなことはどうでもいい。
ようやく待望の部下がやってきたのだから。
彼の名は新木次郎大尉。
中年で小太り。人のよさそうな顔をしている。
サングラスを胸のポケットにしまう。
無意識に何度も瞬きを繰り返す。光がどこかに残っているせいか。
多分、脳のどこか。
目の前には、扉の開いたエレベーターがあった。少し大きめの業務用だ。
さっきの光はこの中から。
二人の女性が立ちすくんでいる。
つまり処理済みというわけだ。
「……」
彼は声には出さないが、ずいぶん失望した。
部下は二人とも女性で、若くかなりかわいかったからだ。
とてもかわいいと言ってもいいくらい。
もちろん新木は個人的にはかわいい女の子が好みなのだが、ここではむしろ邪魔になる。
戦場だから。
よく見る。
なんだかまだ十代に見える。
「なんてことだ」
彼は天を仰いだが、クリーム色の殺風景な天井が見えるだけだ。
彼は即戦力を期待していた。
ここは戦場でしかも最前線だから。それなのに彼一人。
一人で一年間(確かにそうだ)ここを守ってきた。
当然、限界がある。彼は部下を切望した。
やっとその願いが叶い(いつだったのか思い出せないくらい前)、部下が来るとの連絡があった。
以来、ずっと待ち望んでいた。
ロバのように辛抱強く犬のように忠実な部下を。
彼の愚痴を聞き相談にも乗れる程度に優秀なヤツであればなおいい。
エレベーターの扉が開くまで、まさか女性兵が来るなんて想像もしていなかったのだ。
ところが実際は、どうだ。こんなきれいでかわいい女の子たちだとは。
彼は想像する。
まず泣き出す。一人ならまだしも二人だから。
あっちが泣けばこちらも泣き、こちらが泣けばあちらも泣く。
重さも大きさも違うボールでジャグリングをやらされるようなものだ。
さらに彼はジャグリングが苦手なのだ。
なんてことだ。
ここで彼は思わず吹き出した。
ま、実際は、それほど忙しくはない。これも現実だ。
彼が敵の襲撃を受けたのは、ずいぶん前、それから平穏な時が続いている。
今、敵が出現して攻撃してくるとは考えにくい状況だ。
さらに軍隊の決まり文句『足に靴を合わせるのではない。足を靴に合わせるのだ』
いつの時代でもどこの国でも同じ。つまりここでもそうなのだ。
何しろ彼が責任者になるくらいだから。
ないものを望んでも仕方がない。あるもので間に合わせる。それしかない。
彼もまたそうだ。末端のいわば足に過ぎない。
超末端の考える足。いや悩める足か。
彼は二人をさらに観察した。
一人は手足がすらりと長くてスタイルがいい。
ショートカットの大きな頭の下は、すっきりとした顔。切れ長でやや三白眼の目。
もう一人は、背がやや低い。華奢なのでより小柄に見える。
肩まである黒い髪、顔はほぼ逆三角形で、上半分は猫のような大きく敏感そうな目にほぼ占められている。
二人は同じデザインの服を着ている。
濃いブラウンのツーピース、上着には同系色で明るいボタンやリボン。広がったスカートは膝の中程まで。靴までお揃いで、茶色の柔らかそうなパンプスだ。
なかなかセンスがよくて高級そうなのは、ファッションに疎い彼にも分かる。
お揃いということは制服だろうが、どこの制服だろう。
高校生には見えないし、女子大でもない。百貨店か、高級ブティックの店員か。
そこでようやくピンときた。
芸能人なのだ。
だからこれほどかわいいのだ。
もしかすると二人組のアイドルか。
残念ながら彼は芸能界にはファッション以上に疎い。さらに今はこんな辺境の戦地。
それ以上のことは分からない。




