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プロローグ3 敵艦見ゆ

 ルイは一瞬、意識が過去に行きそうになったが、でも両足は無意識の内に動いて、ペダルを調整し球体の位置を調整している。

 そうしなければアリサと相似形に動くことになる。上下左右に激しくシェイクされるわけだ。

 それを両足のペダルでカウンターを当てて無化している。

 ほんの数週間前なら魔法のような操作だが、今は考えなくても反射的に足が動く。

 こちらができるだけ静止していなければ、動く相手に命中出来るはずがない。


 ルイの視野はほぼ二分されている。左側は荒れ狂う海、右は波打ちながら奈落の底まで落ちていく大渦巻き。

 縁の幅は感覚的には二メートルもない。

 船の幅から見れば白刃の上を猛スピードで渡っていくようなもの。

 それを危なげなく、いや十分に危ないけど、でもなんとか操船しているアリサは大したものだ、とルイは感心する。

 訓練とチューニング、ブーステッドのお陰だ。

 それともアイドル時代のあのひりひりするステージの経験の賜かも。

 ルイは声には出さずにアリサに呼びかける。


 アリサ、落ちるなら左の海よ。分かっているわね、間違えても右には落ちないで。


 右側、渦の黒々とした側面に、時々、赤、緑、青など原色の火の粉が散る。

 瞬間、光を浴びて奥深い渦の輪郭がモザイクのように浮き上がる。


 右に落ち込んだら即、ぐしゃぐしゃに縮懐して、砂粒よりも小さくなるはず。

 いや、その前に渦に沿ってぐるぐる回るのかしら。絶対に抜け出せない渦に。


 ルイは死を目の前にして、それがどんな形で訪れてくるのか、よく分かっていない。

 そのことは認めざるをえない。

 この光景だって、わたしたちが視覚的に理解し対応できるように、マザーが変換した結果だから。

 現実は光さえ脱出できない高重力のブラックホールの渦なのだから。

 そんなものはイメージのしようがない。

 人間はイメージできないものには対処できない。

 だからマザ-はこの光景を私たちに見せている。

 

 ゆっくりとした渦の回転は、世界そのものが回転しているかのようだ。

 広大な渦の直系の全域で、砂嵐のように宝石の粉は散り、光る。

 きれいだ。

 

 いけない。

 ルイは気づいて大渦の深淵から目を凝らす。魅入られないように。


 遥か対岸の波と波の狭間、砕ける滴と滴の間。

 銀色に光る小さな点が見える。

 敵の母船だ。

 対象は少しずつ拡大する。ほんの少し。爪の先ぐらいが爪全体になったくらいだが、それで十分だ。

 その銀色の爪から、さらに小さな銀の砂粒がまき散らされた。ネイルのパウダーみたいだ。

 その数十粒。


 耳元でピムリンの声。

「敵、艦載機を発進された模様。その数13機。推定到達時間は約三分後」

「了解」

 ルイは左右のジョイスティックを握ると、手前にぐいと引く。

 カプセルもぐんと上昇する。ルイのカプセルの前方上に位置する。

「さあ、来い」

 ルイは武者震いした。


 * * * * * * * * * *


 敵を前に武者震いするルイ、大渦のエッジの上、懸命に操艦するアリサ。

 彼女たちの上方から俯瞰する位置で、しきりと感心している男がいた。

 位相が違うため、見え方はマジックミラーのように一方通行だ。

 彼女たちには見えない。

 小太りの中年男で、やはりマッサージチェアに座っている。

「いいねぇ」


「最初はどうなることかと思っていたけど、なかなかどうして悪くない。いや、結構、イケてる」

 訓練の成果もあるけど、何より彼女たちの資質と教育のおかげだ。

「アイドルがいい戦士になるかどうかはまだ分からないけど、すでにいい兵士にはなっている」

 彼は満足そうにうなづいた。


これでプロローグは終わりです。

次回からは時間が四週間ほどまき戻って、アイドルの彼女たちがここに連れてこられた発端から話が始まります。ご意見、感想をお待ちしています。

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