プロローグ2 接敵そして
大体、とルイは思う。
この世界には不動のものなんかないんだから、程度問題なんだ。
「あの子、よく酔わないもんだ」
アリサの操作のおかげで、ルイの立っている床は見かけ上、びくともしない。
素晴らしい操船技術。長足の進歩だ。
まあ、命が掛っているんだからね。頼むよ。
「敵。来ます」
と、アリサ。
「了解。あたしの番ね。任せて」
ルイは手前に浮かぶもう一つのカプセルに入る。
座席はたちまち彼女の身体を包み込むように変形する。
ヘルメットを被り、バイザーを下ろす。
視野が広がる。ログインだ。
海の色が明るくなった。群青から灰色へ。渦の細かい襞まで見える。
それでも渦の底は見えない。
半ばより下はまさに漆黒。どこが底なのかも分からない。
光が届かないせいで、全体はバカでかいボールのように見える。球じゃない。キッチンで使うあの金属のボールだ。底がかなり平たいヤツ。底には黒い円盤がはめ込まれている。
それを無理矢理、海に押し込む。水が入らないぎりぎりまで。そしてゆっくりと回転させる。
今がその状況だ。
わたしたちがいるのは回転するボールの縁だ。その上ぎりぎりをアリサが滑走している。
縁を乗り越えて海水が内側に少しずつ流れ落ちている。それがボールの側面を斜めに走る。
いつか海水がボールいっぱいまで溜まって溢れ出す、と思うかも知れない。
そうなったらラッキーだ。何も曲芸みたいに縁を滑走する必要がなくなるから。
でもそうはならない。海水は忘れるほど昔からずっと流れ込んでいるのに、少しもボールを満たさない。
それはボールには底がないからだ。
あまりにも深くて光が届かないから、黒い底板に見えるだけなんだ。実際には海を吸い尽すほどの深い穴なんだ。
つまり落ちたらお終いだってこと。それでアリサはあんなに頑張っている。
わたしは何をするのかというと、向こうからボールの縁を走ってくる敵を撃ち落として、渦に落とすこと。
バキューン。ダッダッダッダ!
まだ敵は見えない。
索敵網に感知されると、すぐに映像としてバイザーに投影される。そのはずだ。
今はそれを待つしかない。
気持ちを静めて深呼吸する。右手と左手、それぞれのジョイステックを確認する。
以前のわたしだったら焦りまくるところだが、今は全然違う。
厳しい訓練を受けたし、精神のずれはチューニング済みだ。身体もブーステッドされている。何も怖がることはない。
と言いながらもわたしは、深い内に潜む自分が怯えているのも感じている。
わたしはそれを軽く無視している。訓練の成果というより、きっとアイドル時代のステージ経験のおかげだ。




