第四章 コミュ障陰キャぼっちにも青春はありますか? 第十七節
束の間の日常
音楽室の二重扉、そのうちの一つを明けると正確に刻まれたベースの音が響いてきた
その先にいる人物を想像しながらもう一枚の扉を開くとそこには想像通りの人物がいた
「……蚊帳ノか」
「あ、えと… 大倉くんだけ…なんだね」
「ああ、今は俺だけだ」
そういうと大倉くんは再びベースを弾き始めた
その音と振動を身体に受けながら私はアンプの電源を入れて準備を始めた
「ギター、買ったのか?」
「えっ… ああ…はい…」
朝、教室に向かう前に置いておいたケースからギターを取り出した直後に大倉くんは呟いた
私はそれに驚きながらも返事をする
それを聞いた大倉くんはそうかとだけ呟いて再び練習を再開した
アンプの準備もできたけどなんとなく練習しずらい雰囲気だ
他のみんながいる中ならともかく大倉くんと二人っきりともなるとさすがに…
私が躊躇していると音楽室の扉が勢いよく開いて誰かが入って来る
「見つけマシタ! やっぱりここに居たんデスね!」
「メイリンちゃん!?」
今日一日、姿を見なかった彼女は私のほうに向かって歩いてきた
「久しぶりの蓬です… もう会えないかと思ってマシタ…」
「だ、大丈夫だよ…? ていうかどうしたの? 今日は休みだったんじゃ…」
「はい… のっぴきならないジジョーというやつで昨日と今日は学校に来れなかったンです…」
のっぴきならないなんてどこでおぼえたんだろ…
それはいいとして、昨日はメイリンちゃんも学校を休んでいただなんて意外だった
「どうかしましたカ?」
「あ、ううん メイリンちゃんが学校休むなんて珍しいなって思って…」
「やっぱり蓬も寂しかったんデスね!」
「うーん ちょっと違うかな…」
確かに最近会っていなかったから心配はしていたけど…
それ以上に今は久しぶりすぎて彼女の距離感の近さにたじろいでしまった
それを横目で見ていた大倉くんはどこか呆れたような表情で言った
「蚊帳ノが言いたいのは風邪ひかなそうなお前が休んだことに驚いたってことだろ」
「むー メイリンはいたって健康優良児なのデ風邪はひかないです!」
頬を膨らませて不服そうにしたメイリンちゃんが抗議する
その様子はとてもほほえましいものだったけどたぶん大倉くんが言いたいのは…
「日本にはバカは風邪をひかないって言葉があるんだよ」
「……什么!?」
意味を理解したらしいメイリンちゃんは大倉くんのほうに詰め寄った
「メイリンをバカにしましたね!?」
「事実を述べただけだろ… なあ、蚊帳ノ?」
「二人とも仲よく…って私!?」
二人を仲裁しようとしたら大倉くんは私にまで火種を投げてきた
私はなにも言ってないのに……
メイリンちゃんの怒りが私に間で及ぶ…なんてことはあるはずもなく私の腕を引き寄せると身体を密着させながら言った
「蓬がそんなこというはずナイです! だって蓬はメイリンのことを愛してマスから!」
「えっ… あ、その…」
否定するにも否定しずらい話だ
確かに私はメイリンちゃんが好きだけどそれはクラスメートとしてのそれであって…
でも恋愛的な意味ではないというのもつい最近まで私と結婚するなんて言っていた彼女にいうのはさすがに人としてどうかと思ったし…
それにどこかの宗教でも隣人を愛しなさいって教えがあったようななかったような…
それよりなんかさっきからすごい身体が密着してない!?
なにがかは分からないけど腕にやたらと柔らかい完食があるし
同性でもセクハラって成立するんだっけ!?
でもこの場合は私のほうが加害者……
そもそもこれってメイリンちゃんわざとやってない!?
ただでさえ耐性がないのに急にこんなことをされて私の頭の中は混乱していた
大倉くんは抗議するメイリンちゃんのことなど気にも止めずに練習してるし私も上手く思考が纏まらなくて大変だった
そんなさなかで再び扉が開く音がして…
「何してんの?」
極めて不満そうな顔で真凛が入ってきた




