第四章 コミュ障陰キャぼっちにも青春はありますか? 第十四節
その選択が引き返せる最後の機会とも知らずに
まるで流されるようにギターを持たされた
「でしたら弾いてみますか?」
店長さんのその言葉に無意識のうちに頷いていたのだ
呪われている…そんないわくつきのギターを持つのも試奏することでさえ初めての私は急いで弦を張り替えたそれを店長さんに渡されアンプの前に立った
「あの…これってどうしたら……」
「セッティングは済ませてありますので適当に弾いて頂ければ」
「…はい」
適当になんて言われてもまだはじめて数ヶ月の私には披露できるような技術はなかった
せいぜい弾けるのが全開のライブでやった一曲ぐらい
あとは最近練習してる曲もあるけど人前で披露するにはまだまだだった
左手で押さえた弦を確かめながら右手を降ろす
いつもと変わらない動作はどこか不慣れでしかし確かに弦をなぞった
上手くミュートできていなかったのか音は不揃いで決して綺麗とは言えなかった
でも確かにアンプから聞こえた音はどこか懐かしいような甘い音色だった
私がその音に耳を奪われていると店長さんはどこか驚いた様子でこちらを見ていた
「あの…」
私が声をかけるとふと我に返ったかのようにこちらに向き直って言った
「失礼しました… しかし驚きました……そのギター、人によっては持っただけで弦が切れたりチューニングが狂ったりするんですがまさか鳴らせるとは…」
「そんな危ないギターだったんですか!?」
弾いた後にそんなことを言われて思わず声が出た
まるで霊感商法みたいなセールストークだなと怪しんでいるとそれまで隅に立っていた雛鳥さんが言った
「店長の言ってることはほんとだよ ボクも何度か見たことあるけどことごとくひどい目に合ってたねー 弦が切れるぐらいかわいいものでギターをスマホの上に落として割った人もいたし」
「えぇ…」
それはそれでギターが大丈夫だったかと心配になるけど雛鳥さんの様子からして霊感商法的なセールストークではないらしい
そんな不吉な話を聞いてもなおこのギターのことがどうしても気になってしまった
まるでずっと昔から私を待っていたようなそんな気がして…
だから
「あの…このギター、私がもらってもいいですか?」
そう口にしたのだ
14.5 魔女の追憶
「相変わらず汚い部屋だな」
唐突に家に上がりこんだ女は言った
「別に…君の仕事部屋ほどじゃないでしょ?」
「それを言われると弱いな… とはいえ探偵には部屋の片付け以上に大切な業務が山積みなんだよ」
「ネコ探しとか浮気調査とか?」
いじわるな笑みを浮かべながらいつものように言った
しかし女は気に留める様子もなく肩を落として口にする
「さすがに現実で凶悪な殺人事件や怪盗との対決はないよ だからこうしてやりたくもない副業をする羽目になっているのさ」
「こっちが本業でしょ…」
まったくこの女は自分が○○○○○○である自覚がないらしい
だがその自覚の有無に関わらずその実力はトップクラスなのだが…
「そのギター、まだつかっているのかい?」
部屋の隅に置かれたそれを見て女は言った
「ええ、悪い?」
「いや、他人の趣味に口出しできるほど私は偉くないんだが… 随分と使い込まれているしなにより君ならもっといいものを用意できるだろう?」
「そうね… でもそれがいい」
一々理由まで説明するのも面倒だったから適当に返事をしてそれで終りにした
ちょうどその時、探していたものを見つけたのでそれを手に取り女に告げる
「行きましょう」
「ああ そうだね」
二人の女はそれぞれ長い布切れを纏った
片方の背中には天秤のもう片方の背中には山羊の刺繡が施されている
その二つの影は薄暗い夜の街に消えた




