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第四章 コミュ障陰キャぼっちにも青春はありますか? 第八節

それがたとえ、ひと時の静寂だとしても…

数ヶ月ぶりに見る父の姿は何も変わっていなかった

髪はぼさぼさで髭も伸ばしたまま、清潔感と呼べるものは微塵も感じられない

けど目の下のくまは酷くなっているみたいで身体つきも以前より細くなっていた

「おと…」

「どういうつもりだ正則まさのり… せっかくお前の子供が来たというのにこんな時間まで寝ているとは…」

私の言葉を遮るようにお祖父様は叫んだ

それを聞いた父は小さくため息を吐くと

「うるせぇなぁ… おめーが呼び出したんだろクソ親父…」

「なんだと! 貴様、それが親に向かって…」

「孫の前でんなこという老害には言われたかねーよ」

また、いつもの光景が始まった

隣に座る柊さんは二人をなだめようとしてくれているけどこうなったら止まらない

若菜はまた始まったかと言わんばかりにスマホを見つめていた


「この親不孝者がっ…」

しばらくの口論が続いた後、そんな捨て台詞と共にお祖父様は出て行ってしまった

秘書である柊さんも付いていったからこの部屋に残されたのは私達三人だけだ

「…」

父との会話にはいつも気を遣う

特に気難しい人だとかやたら厳しいとかではないのだけれど…

普段から一緒に暮らしていないというだけで話題とか話し方とかが分からなくなってた

「蓬、高校はどうだ?」

「あ、えと… 楽しい…よ」

「そうか…」

ありきたりな質問、もしかしたらこの人もまともに会うことの少ない娘への話し方が分からないんじゃないかとも思った

けど、私にもその答えは分からないから適当に答えて黙ってしまう

「いじめられてないか?」

「それは…大丈夫」

いじめというワードに反応してしまう

中学の頃のいじめは父を含め、お母さんにすら話したことはない

けどこの人は何かを感じ取っているみたいな…薄々気が付いているようなそんな感じがあった


「身体はどうだ? まだ、病院には行ってるんだろう」

「うん… 半年に一回…」

「そうか… そう、だよな…」

昔から私の身体…心臓の病気のことに気を遣う人だった

私の病気が分かった時、誰よりも取り乱したって聞いてる

普段の姿からは想像もつかないことだけど

お母さんがそういうことで嘘を吐く人じゃないから本当のことだという確信もあった

「運動は…大丈夫か?」

「授業とかならまぁ… 中学の時のことで母さん、心配してるから念のため休むことも多いけど…」

「そうか… 部活とかも制限されてるだろ…」

「まぁ…うん…」

横目に見る父の表情からは私に対する申し訳ないという感情が伝わってくる


『ちゃんと産んであげられなくてごめん』


きっと普通に生きてたらそんな言葉、一度も聞かないんだろうな

けど私は何度かその言葉を言われたことがあった

まともに生きていられるだけで幸せなのに、どうしてそんなことを言うんだろうって思うけど…

もし、こんな病気がなくみんなみたいに生まれていたら…

そんな風に思うことがあるのも事実だから全てを否定できなかった


「でも、私…音楽部に入ったんだよ…」

「音楽部…」

「あーうん… 軽音部みたいな? そこでギターはじめてさ…」

「ギターか… 良いと思う そうか、蓬にもやりたいことが見つかったのか」

ちゃんと顔までは見れなかったけど父の声はどこか嬉しそうだった

それからしばらく最近の出来事とかアニメの話とかをして…

帰る時間を迎えた


『お父さんが教えてくれたアニメがきっかけでギター始めたんだよ』


なんて言葉、言えたらな…

ふと、お母さんの運転する車の中でそう思った

さすがにそんなことをいう勇気は私にはなかったけど…

「そういえば…」

「どうかしたのか?」

ふと思い出したことを呟きかけた私に若菜は尋ねた

私はそれになんでもないと返事をしてから


『ヒーローにはなれそうか?』


お父さんに聞かれたその言葉の意味をもう一度辿った





8.5


「ヒーローか…」

暗い部屋の中、夜風に誘われて窓の外に消える煙を見つめながら男は言った

まさかとは思ったがここまでシナリオ通りに進むとは思ってもいなかった

いや、内心ではこうなると薄々気が付いていたのかもしれない

「まったく… 六弦を辿るところまで同じとは… テンプルの呪いというやつか」


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