第四章 コミュ障陰キャぼっちにも青春はありますか? 第五節
過去は消えない
「災難でしたね」
「あ、えとっ…」
振り向いた導さんにそう言われた私は上手く言葉が出てこなくてたじろいでしまった
そんな私を見つめながら彼女は気にも留めない様子で言った
「蚊帳ノ氏、この後用事とか…ありますか?」
「あ、いや… でも音楽部のみんなで先輩のお家に…」
行く予定になっているそう言いかけて口が止まった
ここに来る直前に遭遇した先輩たちのやり取り…思い出すだけで意識が遠のきそうになるその光景、果たしてあんなやりとりの後で大丈夫なのかと不安になった
「たぶんその予定ならなくなると思われますよ」
「えっ…」
まるで予言するかのように言った彼女の言葉は的中した
スマホに入っていた通知を確認すると竹本先輩からこのまま一年生は解散するようにとのメッセージが入っていた
「予定、ありますか?」
「…なくなった、かな」
先輩たちのことが気になって返事が曖昧になってしまったけれど導さんの読みは当たっていた
私からの返事を聞いた導さんはかすかに表情が明るくなった気がした
それから
「でしたら、私の家に来てくれませんか?」
「導さんのお家に?」
「はい、こんな場所での突然の申し出に蚊帳ノ氏も困惑されると思いますが私としてもお世話になった先輩を失ってしまいこの悲しみを誰かと共有したいと考えておりまして…」
導さんは早口にしかし聞き取りやすい声と早さでそう言った
まるで誰かに聞かせているみたいな舞台の上の演技のような話し方だったけど出会った時からそうだった気がして気にするのをやめた
「私で…よければ」
私なんかになにができるのかとも思ったけれど話を聞いてもらうだけでも楽になることはある
だから私でも力になれるんじゃないかと思ってその申し出を受け入れようとしたその時だった
「あっ… すみません…」
隣を横切った人影にぶつかりそうになってしまった
咄嗟に謝ってその人を見る
「いえ…」
「…」
明確に心臓の音が聞こえた
胸の奥底から悲鳴のような音が聞こえた
その蛇の目のような双眸に捉えられた私の身体は時間が止まったかのように立ち尽くした
「あ、あっ… h… は… はぁ… h…ぁ」
呼吸が乱れる
上手く息ができなかった
二年以上顔も見ていなかった
もう二度と会うことなんてないと思っていた
それなのに…
家山愛輪守
中一の時、私をいじめた主犯の一人、その彼女が目の目に立っていた
どうしてこんな所にいるの?
顔を見られたけどもし覚えていたら?
話しかけられたなんて言ったら?
頭の中を無数の恐怖と思考が埋め尽くしていく
今すぐにでも逃げ出したい
まともに息すらできなくて苦しい
「あの… すみません」
立ち止まった彼女は一言だけ謝罪するとそのまま立ち去ってしまった
「蚊帳ノ氏? どうかしましたか?」
「あっ… あの… その… えっと… ごめん…」
「蚊帳ノさん?」
私は彼女が呼ぶ声すら無視して逃げるようにその場から立ち去った
まるであの頃の記憶から逃げるみたいに…




