第四章 コミュ障陰キャぼっちにも青春はありますか? 第四節
百合の花は未だ開かず
『PRIVATELILLIE』その言葉にはどこか聞き覚えがあった
「どうして先輩たちのことを知ってるんですか?」
こんな場所で好奇心にまかせて詮索するんてそれこそ人としてどうかと思った
けど、雛鳥さんと面識があるだけのこの人がどうしてそんなことを知っているのか、それが私に近づくための嘘じゃなかったとしたら…
「簡単な話ですよ 私はm」
「おっと これは蚊帳ノ氏ではないですか!」
その人が何かを言いかけたその時、後ろからやたらと明るい声が響いた
あちこちから話し声は聞こえているものの土の声も囁くようなものばかりだったこの空間で言ってしまえば場違いにも思える声だった
再びどこから都もなく聞こえた声を辿ると真後ろに女の子が立っている
同じ制服を着た、私よりも少しだけ背の高い女の子だ
私は彼女とどこかで会った気がする
でもそれがどこで彼女が誰なのか思い出せなくて
「ああ、思い出せない感じでしょうか?」
「あ、えと…」
「まあ無理もありませんね あの時は私も名乗っていませんでしたから…」
そういうと彼女は制服のポケットから小さなぬいぐるみを取り出した
「これなら分かりますか?」
「あ、ゴッホの…」
そのぬいぐるみを見て思い出した
以前、真凛と一緒に彼女が落としたというぬいぐるみを探した子だ
そういえばあの時はお互いにちゃんと名乗っていなかったから名前が分からなくても無理はなかった
彼女のほうを見るとどこか恥ずかしそうにしながら言った
「ですです、あの時助けていただいたものでして… あ、名前は導御命っていいます」
「導御命さん… 私は…」
「あっああ 大丈夫ですよ 蚊帳ノさんのお名前はバッチリ覚えてますので」
「あ、うん…」
直接名乗った覚えはなかったけどどうやら私の名前を知っているみたいだった
真凛から聞いたのかな?
「まさか…こんなところで蚊帳ノさんとお会いするなんて…」
「あ、えと… 導さんも先輩と関りがあったんですね…」
なんて返したらいいか分からなくて上手く言葉が出てこなかった
「まあ、そこまで深い関係ではないんですけどね… 中学の先輩後輩的な?」
「ああ、なるほど…」
「花音先輩には中学の頃、ちょっとお世話になったのでそれで… なんかすいませんこんなこと…」
もともとの会場の空気もあってか雰囲気が重くなる
何か話題を変えようと思考を巡らせていると背後に立ったままのあの人が口を開いた
「ところで蚊帳ノさん、さっきの件ですが…」
「あ、すみません…」
導さんとの会話に気を取られて喪黒さんのことをすっかり忘れていた
ひとまず喪黒さんのほうから用件を済ませようとしたその時だった
「さっきの用件てなんです?」
「導さん?」
急に会話に入って来た導さんは私ではなく喪黒さんのほうを見ながら言った
「あなたには関係ないことですよ」
「そっちこそ火葬屋にしては度が過ぎるのでは?」
導さんの声は先ほどまでとは別人のように低かった
思わず彼女の顔を見返したけどまるで表情は変わっていなかった
貼り付けたような表情、なのかもしれない
けど彼女の表情や仕草の一つ一るに違和感はなく一流俳優の演技ではないかと疑うほどに自然だった
「彼女の件、記憶の抹消に失敗してる時点でこれ以上の干渉は認められない」
「そうですか…」
軽くため息を吐くと喪黒さんは私のほうに近づいて言った
「この話しはまたいつか」
ただその言葉だけを残して夜の霧のようにいつの間にかいなくなっていた




