第四章 コミュ障陰キャぼっちにも青春はありますか 第二節
信頼という甘い蜜は雨粒のように零れ落ちて
17/20 ・ 20/06
先輩の葬儀は翌日に行なわれた
本来であればもっとお別れまでの時間を取るのが一般的らしいけれどあの事故の影響で葬儀場も火葬場も普段の十倍以上の予約で埋まっていたこと、それに加えて先輩の遺体の状態を考慮しての日程とのことだった
学校が臨時休校になったことと蓮見先輩から私達、音楽部の一年生にも参列してほしいと連絡があって葬儀に参列することになったのだ
そして今に至る
「本当のことを言えって言ってるの!」
「だから私はあの現場になんか行ってないって言ってるでしょ!?」
葬儀場内を目的の場所に向かって歩いているとそんな言い争いの声が聞こえた
その声がどちらも聞き覚えのあるものだったから私はどうしても無視できなくてその音を辿ってしまった
「だから、あなたがあの事故現場居たのを私が見たの!」
「それで? 私が事故を起こしたとでも言いたいわけ?」
向かい合わせで言い争う二つの人影は私の思った通り蓮見先輩と田村先輩だった
ただでさえ静かな場内で怒鳴り合う二人の声は響いて、しかし二人ともそれを気にする様子もなかった
「あの…」
「そういうことじゃなくて… そうじゃない! そうじゃないのに… 何も分からない」
「分からないって何? 松子だって花音と一緒にいたんでしょ? それで私が居たとか言いだしてなにが言いたいの!?」
二人の間に入る隙なんてなかった
言葉に詰まりながら何かを吐き出すみたいに叫ぶ田村先輩といつもの様子からはまるで想像もできないぐらい激昂した蓮見先輩の言い争居は部外者、ましてやたまたま通りがかっただけの私に仲裁できるものではなかった
私が声をかけるタイミングを失って立ち尽くしている間にも二人の口論は止まらない
それどころかますます加熱するいっぽうで…
「蚊帳ノ」
何もできないまま私が立ち尽くしていると背後から声が掛かった
「あ、えと…」
振り返るとそこには同じ音楽部の竹本惠先輩が立っていた
先輩は私の返事を待たずに二人のもとに近づくと
「おい」
「惠」
驚いた様子の蓮見先輩を横目に竹本先輩のほうはずっともう一人の人影を睨んでいた
「いつまでこんなことをするつもりだ?」
「あなたには関係ないでしょう…」
「花音の葬式なんだせめて時と場所ぐらいは弁えろ」
冷たく乾いた声が響いた
直後、沈黙
「あなたには関係ない」
沈黙を破たその声をぱんっと乾いた音が貫く
あまりに一瞬の出来事に私はおろか蓮見先輩すらもあっけにとられていた
平手打ち…ドラマや映画でしか見たことのないそれが目の前で行なわれて一瞬だけど本当に呼吸を忘れていた
「惠?」
再び流れた沈黙を破った蓮見先輩は驚いたような不安そうな顔で手を出したほうの人影の名前を呟いた
「どうして…」
「こいつには…これぐらいしないと分からないだろ」
「…だからって」
何かを言いかけた先輩の言葉はそれ以上は続かなかった
「もういい」
「あ、ちょっ」
田村先輩は俯いたままそう呟くと出口に向かって歩いて行ってしまった
それを止めようとした蓮見先輩も伸ばした手が届かなくて…
「あなただけは分かってくれると思ってたのに…」
「あっ…」
静かに呟いた彼女の言葉は私にしか届かなかった




