第三章 コミュ障陰キャぼっちでもライブはできますか? 第九十九節
あなたのために
「本当にいいんですか?」
自分で言うのもおかしな話だったが念のため目の前の少女に確認した
「ええ 私のせいでこうなったんだから… 代わりに松子のこと、お願い」
静かに呟いた少女の声には確かな覚悟が宿っていた
「本来であれば、あなたのことも守るのが私の職務です しかし…ここで私が引き下がらなければここにいる全員が死ぬことになる」
「だったら反対する理由はないでしょ」
あいにく相手の状態を見てもこれ以上、残ることは不可能だった
だから…
「学がないのでありきたりな言葉しか言えませんが… あなたの犠牲は忘れません」
「…松子に いや、なんでもない」
その言葉を最後に意識が朦朧とした少女を抱きかかえ走り出した
「本当に残るなんてバカな子…」
「…これが私なりの責任のとり方だから」
嘲笑うように言いのけた女に対しそう言った
たぶん、数秒足止めできれば良いほうだろう
相手も自分のことは敵とすら認識していないだろうし実際、敵として立ち向かえるほどの実力もない
でもほんの少しでも足止めできたのなら
きっとその数秒の家に火葬屋の彼ならば松子を安全な所へ連れて行ってくれるだから…
「ところで気になったのだけど」
「…なに?」
「あなたはどうして、ここで死のうと思ったの?」
すぐに殺されるかと思っていた
抵抗もできないまま無残に殺されるしか選択肢はないと思っていた
けど彼女はそんな私の予想に反して以外にも会話という選択を選んだ
「どうしてって…」
「ここで私と戦ったとこところで犬死には確定、だからどうしてかと思って… ねえ、どうして?」
山羊のような瞳に捉えられて思考は混濁する
なぜ自分はここに残ったのか?
確かにバカな話だ
でもそれしか選択肢がなかったから
違う、火葬屋にとって自分と松子を助ける優先順位は対等、むしろ私のほうが上ですらあった
私ならこの女についての情報を知っている
どちらか片方を見捨てればどちらか片方を救えるのなら損得勘定だけなら私を選ばせることだってできたかもしれない
それでもなお、私がここにいることを選んだ理由は…
「松子には幸せになってほしいから」
「は?」
「松子は幸せにならなくちゃいけない… 雅さんの分も幸せに」
いつも心残りだった
自分の愚かな嫉妬とたった一度の過ちのせいで雅さんを大切な人を松子から奪ってしまったことを後悔していた
「恋や桜、惠とも仲直りして… バンドして、音楽を続けて…」
勝手な願いだ
ただ自分の理想を自分が好きだな人に押し付けるだけのそれは呪いにすら近い願望だった
ただ、それでも
「いつか、雅さんに届くように…」
彼女を呪うことになったとしても自分に取っての贖罪はそれしか思いつかなかったから
「だから私は…ここで死ぬ」
「あなたと一緒に」




