第三章 コミュ障陰キャぼっちでもライブはできますか? 第九十七節
人間賛歌
その男は酷く疲れた表情でそこに立っていた
全身を夜の闇に包んだようなスーツ姿の男だ
その男は私の前に立つと無機質な声で言った
「まったくどうしてあなた方はこうも欲望に忠実なのか… 少しは我慢を覚えたらどうです?」
「何のことかしら? お腹が空いたから食事をするのはニンゲンも対して変わらないでしょう?」
形のない影に向かって語る男にどこからかも分からない声が返ってきた
男はため息を吐くと先ほどよりも数段、声のトーンを落として言った
「やはり会話が通じませんか…」
「始めから話し合うつもりなんてなかったくせによくいうわ」
張り付いた緊張感、まるで張り詰めた糸を切るみたいに風が吹いた
金属同士がぶつかるような高い音が鳴る
思わず目をつぶってしまうほどの光景の中で声が聞こえた
「足手まといが多すぎるんじゃない?」
「そうですね 本当に困ったものです…」
その言葉の直後に今度は地面を振動が襲った
地震とは違った振動、まるで地面が割れるみたいな轟音とともに近づいてくる
違う、文字通りそれは地面に巨大な亀裂を作りながらこちらに迫ってきていた
瞬間、身体が宙に浮いたそれから私はあの男の人に支えられていた
「いい加減にしてほしいものですね」
そう呟いた瞬間、赤い閃光が辺りを包んだ
「まさか、自爆でもするつもりかしら?」
「まさか… 爆発すのはあなただけですよ」
途端に目の目の地面が割れて大きな空洞ができた
「ちょっと、なんなの?」
「ちゃんと捕まっていてくださいね」
直後、雷のような轟音と共に穴の中からは閃光が飛び交った
「なんとか、と言った所でしょうか どうせこれぐらいじゃ死んではくれないんでしょうがね… ひとまず協会の応援が来るまでの時間稼ぎ弐は鳴ったかと」
「あの…」
ぶつぶつと独り言を呟く男に話しかけた
男はこちらに振り返ると
「失礼、少々考え事をしていたもので…」
「いったい、なんなんですかこれは…」
「あなたは知らなくていいことですよ どうせこの後、協会からの封印措置でこの件に関する記憶は消されますので」
まるで事務処理のように男は言った
「記憶を消すって…」
「それよりあちらのお友達の心配をしたらどうです?」
「…花音!」
さっきまで下敷きになっていた花音のことを思い出して駆け寄った
幸い、下敷きになったままだけど他にケガはしてないらしい
「松子…」
「花音、今助けるから」
そう言って彼女の上に乗ったガレキをどかそうとしたその時だった
「ニンゲンにしてはよくやるじゃない」
「っ…」
まるで舞台の奈落から舞い戻るようにその声は姿なく再臨した
「どう、して…」
「火葬屋ごときに私が負けるわけないでしょう? それより」
そういうとその声、いや今になってはっきりと姿を現したそれはやすやすとガレキを粉砕した
「花音!」
「…うっ」
花音の首を掴んだその影は山羊のような目でこちらを見つめてきた
見るものを惑わすかのようなとても不思議な瞳…
「ニンゲンは本当に無力ですね」
「わた…しは…」
その瞳に飲み込まれたまま意識が遠のいていく
今にも花音が殺されろうなのに私は何もできなかった
声も出せぬまま全てが終わっていく… その絶望感に襲われたその時だ
「やっと隙を見せてくれましたね」
瞬間、その影の首が地面に落ちた




