第三章 コミュ障陰キャぼっちでもライブはできますか? 第九十一節
暗がりに響く思い
それ以来、私はピアノを弾かなくなった
どれだけ努力しても才能には敵わないから…違う、本当は花音と一緒にいるのが耐えられなかったからだった
花音と自分を比べて惨めな思いになるのが嫌だった、何も努力してないみたいにふるまって自分を追い越していく花音をみたくなかった
だから逃げた、ピアノからも花音からも…
「田村さんってピアノ弾けたよね?」
「ええ…まあ…」
高校に入学して一か月が過ぎた頃、唐突に中学時代の先輩から呼び出されたのが全ての始まりだった
放課後の音楽室でそんなことを言いだした先輩は中学時代の恩人だった
花音と同じ学校なのにわざわざ桜水に進学した理由も先輩と同じ学校に通うためだった
そんな憧れの先輩からの呼び出し… 少しだけ期待していたのに…
私が予想もしてなかった問いかけに思わず本当のことを言ってしまったことを後悔する
「ほんと! それなら…私達と一緒にバンドしない?」
「ええ…」
先輩とバンドができるなんて夢みたいな話しだ
でもバンドにはもうすでに同じ一年生が何人か入っているらしかった
しかも探していたのはキーボードつまりピアノだ
「ダメ?」
「私よりB組の梅田さんのほうが適任だと思いますよ」
「えっと その花音ちゃんが田村さんがいいんじゃないかって教えてくれたんだよね」
どうして花音が私ほうがいいなんて言ったのかその理由は分からななった
けど今思えばあの頃から花音は私が雅さんに抱いていた想いに気が付いていたのかもしれない
結局、そのあと何度か断ったけど雅さんも恋も一向に引かなくて、仕方なくバンドに入ることにした
その半年後に雅さんと付き合えることになったのももしかすると…
気が付くと私は見覚えのないビルに立っていた
どうしてこんな所に来てしまったのか記憶がない
ついさっきまで昔のことを思い出していた気がする、けど同時に誰かに呼ばれて歩いていたような気もした
意識がぼやけた、まるで霧がかかったみたいになっていた頭の中がゆっくりと意識を取り戻していく
そうして自分という存在を世界に取り戻そうとした時だった
「松子!」
「っ!?」
後ろから急に肩を捕まれて驚く、振り返ると慌てた様子の花音が立っていた
「花音… どうして…」
「松子の…様子がおかしかったから… ついてきたら、こんな…所に…」
息も絶え絶えに花音は言った
「こんな所?」
珍しく慌てた様子の花音の言葉が気になってスマホの地図を確認した
アプリ上の現在地は改装工事中のショッピングセンターを指している
「え… なに、これ…」
「松子、気づいてんかったの?」
「自分からこんなとこ来るわけないでしょ! いいから早く出るよ」
花音の手を掴んで足早に立ち去ろうとした
建物の中は薄暗くて灯もない、スマホのライトだけを頼りにして慎重にそして急ぎながら出口を目指す
「どうしてついてきたの?」
「…」
あんな風に怒った私のことなんて放っておいいて良かったのにどうしてついてきたのか
花音に尋ねてもてもその返事はなかった
薄暗い通路に漂う沈黙、まるでお化け屋敷みたいな雰囲気でやたらと不気味だった
「昔と同じ…」
花音はふいに呟いた
そういえば小学生の頃、一度だけ花音と肝試しに参加したことがある
林間合宿か何かで悪乗りしたクラスメートに無理やり巻き込まれたんだっけ
たしかあの時は花音が怖がって泣き出してしまって…私が今みたいに花音の手を引いて歩いたんだっけ
あの頃は花音とまだちゃんと友達だったんだなと思ってしまう
もしかしたらピアノなんてなければ今もまだ… 友達で入れたのかな…
「…あの頃から、松子のこと好きだった」
「なに急に?」
花音の小さな声は静寂の中ではよく聞こえる
いや、よく聞こえてしまった
「私は松子が好き…」
「だからなんなの?」
さっきからおかしなことばかり呟く花音に言い返したすると
「…友達としてじゃない …恋愛的に松子が… 好き」




