第三章 コミュ障陰キャぼっちでもライブはできますか? 第八十五節
そして三樹、その木は解析をもたらす
「あ、ありましたー」
「はや!」
三人で探し始めてからまだ五分も経っていないのに彼女の探していたぬいぐるみはあっさりと見つかった
「とりあえず見つかって良かった…のかな?」
「はい! ありがとうございました! 危うくこのままだとテオ君とゴッホちゃんが生き別れに…でもその場合はゴーギャンたそ的には良かったのかな…」
「なんかまた自分の世界に入ってない?」
見つけたぬいぐるみを抱きしめながらぶつぶつと何かを言っている彼女を見て真凛は呆れた様子だった
たぶん彼女が言ってるのはゴッホの弟のテオと同じく画家のゴーギャンのことだろう
何かの漫画で三人がいわゆる三角関係的な存在だったっていうのは覚えてるけどそんなことを口走ったらまた彼女のマシンガントークに蜂の巣にされそうだからやめておいた
「それじゃ私達はこれで」
「お、お待ち下さい… えとそのまだお礼ができていなくてですね」
「別に気にしなくていいよ ほとんど何もしてないしそれにアタシたちも部活に戻らないとだからさ」
私を連れて立ち去ろうとした真凛の手をとって彼女は言った
真凛はその申し出を断りつつ彼女の手を離そうとしているけど相手のほうも引き下がる気配はない…
「とにかくこんなんでは私の気が済まないんです!」
「気持ちだけで大丈夫だから、ね!」
「いえいえ ここでお二人に何もお礼をしないなんてそれこそ末代までの恥… そんなことになれば帰宅後、全裸で親族一堂に土下座したのちそのまま介錯無しで切腹せねばなりません」
「どんな家庭なの!?」
言ってることが戦国時代過ぎる…
全裸で土下座の時点でだいぶヤバいのにそのまま切腹なんて…
比喩表現や冗談みたいなセリフだけど彼女の言葉はいたって真剣だった
「ねえ真凛、ここまで言うならありがたくお礼を受け取ったほうがいいんじゃ…」
「たしかにそうかもだけど…」
真凛と小声で話していると彼女は何か閃いたみたいに顔をあげた
「あの… ではこれで貸し一つ… ということでいかがでしょうか?」
「貸し?」
困惑した私と真凛の声が重なった
そんな私たちを見て彼女は胸に抱いていたぬいぐるみを地面に置くとなにやら制服のポケットの中を探し始めた
それからしばらくしてようやくお目当てのものが見つかったらしい
「実はこれ、誰かに渡すのはじめてなんですよ… へへっ… つまりはお二人が私のはじめてのひと…」
「なんか色々誤解されそうな言い方なんだけど…」
珍しく真凛が怪訝そうな顔で見つめているけど当の本人は気にすることもなく続けた
「あれ…でも一枚しか… ええ…うそ…」
「それなら二人で一枚で大丈夫だけど」
「ほんとですか! ではお言葉に甘えて…」
そう言って彼女が差し出してきたのは一枚の小さな紙…名刺だった
「河原木探偵事務所…」
「はい! 知り合いのやってる事務所なんですが今度遊びに来てももらえればなと」
探偵なんてアニメか小説の中でしか見たことがなかったからちょっとだけ興味があった
真凛は何とも言えない表情でその紙を見つめると
「ありがと いけたら行くね」
「はい… ぜひお待ちしてます」
たぶん行かないやつだと思いつつそれを口にするほど私は無神経じゃなかった
「うーん せっかくだけどなんか行きづらいな…」
さっきもらった名刺を見て真凛が呟いた
「なら、その名刺私がもらってもいい?」
「いいけど… 行くの?」
「分かんないけど 一応…」
さすがに一人で行く勇気も誰かを誘う勇気もないから彼女には悪いけど行かないで終わる可能性は高い
けどせっかくだからと受け取ることにした
それから私と真凛は音楽室に戻ることにした
結局、バンド名の候補はなにも思いつかなかったけどただこうして二人で並んで歩けることが幸せに思えたんだ




